本研究は、哺乳類が次世代を育むために必須である胎盤の形成機構を明らかにすることを目的として行った。これまで、胚および胎盤の構成細胞である「トロホブラスト細胞」の詳細な分化・融合機構については未だに明らかにされていない。そこで、ゲノムに隠れている内在性レトロウイルス因子(ERVs)の発現変化について着目し、着床前後における胚トロホブラスト細胞のゲノムの状態変化と、トロホブラス細胞の分化・融合機構から胎盤の形成メカニズムを明らかにしていった。本研究では、初めて着床周辺期のウシ子宮組織を用いることで、着床直後から少しずつ融合細胞が増えていくことを確認した。さらに細胞培養系を用いて、トロホブラスト細胞の分化・融合に重要な因子の探索・同定を目的に、RNAシークエンシングを用いて網羅的に分化・融合に関連する因子を探索したところ、複数の候補因子が融合に必要なERVsの発現を制御していることを明らかにした。これらの候補因子群は、分化・融合に重要な2つのERVs因子の発現のみならず、クロマチン修飾の状態変化も引き起こしていた。その一つとして、PPARGの活性化がERVsの発現を誘導することを同定し、この活性化により一部細胞融合を誘起できることを明らかにした。これらの成果は、ウシの胎盤形成機構の一端を明らかにしただけではなく、細胞融合のメカニズムや、まだ不明な点が多くある様々な内在性レトロウイルス因子の発現制御機構を解明する重要な情報である。
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