研究課題/領域番号 |
18K14567
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小野木 章雄 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, 上級研究員 (60760501)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 優性効果 / 育種価 / 分離予測 / 交配 / 黒毛和種 / 育種 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
今年度は(一社)家畜改良事業団から提供された9,851頭の黒毛和種肥育牛のデータに拡大した。昨年度同様これらのデータは同団が行う現場後代検定事業で収集された。形質は脂肪交雑(BMS)、枝肉重量(CW)、ロース芯面積(REA)、バラの厚さ(RT)、皮下脂肪厚(SFT)、歩留基準値(YE)を用いた。ゲノム情報として39,428 一塩基多型(SNPs)の遺伝子型情報を用いた。 このデータから対立遺伝子組み合わせ効果(優性効果)のゲノムワイドな分布を推定した。相加的効果及び優性効果が、表現型値に占める割合はそれぞれ0.342(RT)から0.512(CW)及び0.002(BMS)から0.046(CW)であった。優性効果の割合は小さいデータを用いた昨年度の推定値より減少した。優性効果の割合は系統などにより異なり大きなデータで推定すると低いが、小さなデータが特定の系統から成る場合に高く推定されることが考えられた。そこで大きな優性効果を示す系統組み合わせを検出するため、肥育牛が10頭以上存在する父と母方祖父の組み合わせを82組抽出した。すると延べ53組み合わせで肥育牛の優性効果は全体平均より有意に高かった。これはSNP情報から交配組み合わせを決定する際の重要な知見となりうる。 昨年度は交配シミュレーションに北米ホルスタイン集団での組換え頻度を用いたが、頻度によりシミュレーション結果がどれだけ変わるかを検証した。データは昨年度のものを用い、組換え頻度を(1)北米ホルスタイン集団の推定値、(2)全SNP間の頻度を(1)の中央値、(3)1bp当たりの頻度を(1)から求めた平均値、とした3通りで比較した。その結果産子の分布は(1)から(3)で変わりなく、正確な組換え頻度の推定は必要ないことが示唆された。これはシミュレーションの運用上手順に大きな簡略化が可能であることを示しており有用な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度報告した今後の計画では(1)エピスタシス効果の探索、(2)黒毛和種集団を用いたSNP間の組み換え確率の推定、(3)優性効果を考慮した交配シミュレータの有用性検証、を行い、いずれについてもデータを拡大し、優性効果の分布推定なども余力があれば規模の大きなデータで再度行う、とした。最後は余力があればとしたが、より正確な推定値を得ることは今後の研究に必須と考え、これを最初に行った。(3)については検証方法は当初の予定と異なるが、優性効果の大きな父と母方祖父の組み合わせを複数検出し、一定の成果を得たと考える。また(2)については正確な組換え頻度の推定はシミュレーションの結果に大きな影響を与えないことを明らかにした。(1)から(3)は今後2年の計画であることを考えると、現状では研究は概ね順調に進行していると判断してよい。
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今後の研究の推進方策 |
最後の3年目以降は(1)緩やかな推定方法を用いたエピスタシス効果の探索と(2)優性及びエピスタシス効果を考慮した交配シミュレータの有用性検証を行う。(1)については今年度の結果から優性効果の割合が小さくまたゲノム全体に分散していることから、エピスタシスについても統計的に有意のSNPを検出しそれだけ用いる方法(厳しい推定方法)では厳しいと考え、優性効果同様に緩やかな推定方法を用いる。(2)については昨年度の計画同様、1)SNP遺伝子型情報を持つ父母子の組み合わせを多数抽出して、子の能力の分布を交配シミュレータで推定、2)観察された子の能力が得られる確率をその分布をもとに計算、3)これを多数の父母子組み合わせについて行い、交配シミュレータの分布と実際の子の能力分布が等しい場合は、子が得られる確率は0から1まで一様に分布するはずなので、そこからの逸脱を検定する、という手順で行う。この3年目の成果を加えることで黒毛和種における優性効果やエピスタシス効果などの組み合わせの効果についての詳細な知見と、その交配組み合わせ策定における有用性が判明することが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
航空機やパック商品の価格の変動などで旅費の支出の予測が難しく差額が発生した。次年度は成果発表や研究打合せに関わる旅費として使用する。
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