今年度は昨年度に引き続き(一社)家畜改良事業団から提供された黒毛和種肥育牛のデータを用いた。形質は脂肪交雑(BMS)、枝肉重量(CW)、ロース芯面積(REA)、バラの厚さ(RT)、皮下脂肪厚(SFT)、歩留基準値(YE)であった。ゲノム情報として一塩基多型(SNPs)の情報を用いた。今年度の目標とした緩やかな方法を用いたエピスタシス効果の探索を行った。まずAICを用いたモデル選択を行った。RTは相加効果の他に優性効果・相加×相加のエピスタシス効果・相加×優性のエピスタシス効果を含むモデル、RT以外は相加効果と相加×相加のエピスタシス効果を含むモデルが選択された。相加×相加のエピスタシス効果は表現型分散の13.8%(BMS)から19.3%(YI)を占めた。一方優性効果は、共変量としてSNPから計算したヘテロ接合率をモデルに加えた結果、RT以外の形質ではほぼ0となりモデルに含まれず、RTにおいても非常に小さい値となった。次に交配シミュレータ開発の前提として、エピスタシス効果を考慮することで表現型値の予測が改善するかを交差検証で確認した。相加効果のみを含むモデルと、AICで選択したエピスタシス効果を含むモデルの間で予測の正確さ(表現型値と予測値の相関係数)は差がなかった(0.001から0.006の範囲)。統計的な検証の結果、膨大なSNP組み合わせが存在するために、データにない新しい(つまり効果を推定できない)組み合わせが常に一定量存在することが原因と示唆された。以上の結果から、当初予定していたエピスタシス効果をもとにした交配シミュレータは現実的でないことがわかった。しかし本研究は黒毛和種の枝肉形質における非相加的な効果(優性効果・エピスタシス効果)をSNPから初めて推定した研究であり、その点における意義はあったと考える。
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