研究実績の概要 |
産卵鶏の腸内環境と内分泌制御機構との関連を調べることを目的とし、これまでに急性腸炎よる腸内環境悪化モデルとして、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)の経口投与によるニワトリ腸炎モデルを作出している。この炎症モデルは産卵鶏の盲腸における腸管炎症を誘導し、産卵機能を低下させることが分かっていたが、その原因は不明であった。そのため、本年度はこの原因を明らかにすることを目的とし、卵黄前駆物質の合成の場である肝臓に焦点を当ててDSS投与の影響を解析した。 300日齢の白色レグホン産卵鶏に、0, 9 mg/ 4 ml/ kg BWのDSS水溶液または水(DSS区または対照区)を5日間経口投与し、6日目に肝臓を採材した。材料はHE染色による組織像の観察と、肝臓組織中のLPS(リポ多糖:グラム陰性菌成分)分布頻度の解析、および肝臓組織中の遺伝子発現解析に用いた。その結果、DSS投与区では対象区と比べて炎症性サイトカイン (IL-1β, IL-8)が増加し、抗炎症性サイトカイン (TGFβ-2および-4)の遺伝子発現は低下した。また、肝臓組織内の白血球やLPS陽性細胞数はDSS投与区では対象区と比べて有意に高い値を示していた。続いて、脂質合成関連因子 (SREBP-1およびACC), 脂質の取り込み関連因子(SREBP-2およびLDLr)、そして卵黄前駆物質関連因子 (ApoVLDLII, ApoB, VTG-II)の遺伝子発現はDSS投与区で対象区よりも低い値を示した。このことから、DSSによる急性腸炎は、グラム陰性菌やその菌体成分であるLPSの肝臓への流入を増加させ、肝臓での炎症を誘導させることが明らかになった。この肝臓の炎症が卵黄前駆物質の合成や、その材料となる脂質の合成や取り込みを低下させ、結果的に産卵機能が落ちたものと推察された。
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