研究実績の概要 |
本研究は、現状では非常に低いニワトリ精子幹細胞の移植効率を実用可能なレベルまで引き上げることに挑戦した。精子幹細胞を移植して精子形成を効率的に再構築させるためには、生殖細胞が除去された宿主を用いることが理想的である。放卵直後のニワトリ胚の卵黄中にブスルファンを100 μgずつ投与した結果、内在性生殖細胞がほとんど完全に除去された。続いて、ニワトリ精巣を単一細胞に解離して宿主ニワトリ精巣への移植を試みた。しかし、ニワトリではマウスのように明瞭な輸精管が確認されず、精細管内への定量的な細胞移植が困難であった。今後、現在育成中の精細管内への細胞注入が確認された宿主を用いて、ドナー精子幹細胞由来の精子形成の再構築を組織学および後代検定により解析する必要がある。代わりに、胚時期の宿主に始原生殖細胞を移植した結果、精子形成が再構築されることは確認できている。精子幹細胞の移植効率を改善するための糸口を見つけるために、マウスをモデルに用いて移植した精子幹細胞の振舞いを単一細胞の分解能で解析した。その結果、移植後に宿主精巣に生着した精子幹細胞の大部分が分化と細胞死によって消失し、自己複製して精子形成を再構築するのはごく一部であることを発見した。そこで、宿主精巣におけるレチノイン酸合成をWIN18,446で一時的に阻害した結果、ドナー精子幹細胞の分化が抑制されると共に自己複製が誘導され、最終的な精子形成の再構築の効率が飛躍的に向上した。この方法論をニワトリの精子幹細胞移植へ応用するため、WIN18,446の投与がニワトリ精子形成に及ぼす影響を検討した。その結果、マウスのように精子幹細胞の分化抑制が起こらなかったことから、WIN18,446は鳥類には作用しない可能性が示唆された。現在、異なるアプローチによりニワトリ精子幹細胞の分化抑制ができないか検討している。
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