ゲノミック評価は、実データ(後代や自身の成績)を用いずに、染色体上に分布する数万箇所の一塩基多型(SNP)を遺伝子変異のマーカーとして、個体の遺伝的能力を評価する技術である。個体の早期選抜技術であるゲノミック評価は、乳用牛の世代間隔を大幅に短縮させた。その一方で、若い父母等、実データが欠損する祖先は、リファレンス集団(ゲノミック評価のベースとなる祖先集団)に含まれない。このことにより発生する「評価のバイアス(過大または過小な評価)」が問題となっている。本研究では、リファレンス集団における祖先情報の欠損が乳用牛ゲノミック評価のバイアス発生に及ぼす影響について、仮想データおよび実際の乳用牛データを用いて検証した。 仮想データを用いた検証では、娘牛の成績に基づいて選抜される種雄牛集団について、選抜率および集団サイズの異なる仮想データを発生させた。リファレンス集団から父牛を除いて算出したゲノミック評価値のバイアス(真の遺伝的能力からのズレ)について、リファレンス集団が完全な評価値のバイアスと比較した。その結果、無選抜集団よりも選抜集団において、また、リファレンス集団が小さいほど、父牛が不明のリファレンス集団から算出したゲノミック評価値のバイアスが大きくなることを明らかにした。 国内の乳用牛集団に関する実際の評価値を用いた検証については、入手できたSNPデータを持つ個体のうち、検証用のリファレンス集団として利用可能な種雄牛が374頭と当初想定していた頭数よりも少なかったため、今後頭数が増えた段階で改めて検証する計画である。 本成果は、国際的なゲノミック評価開始から10年が経過し、祖先情報が欠損した状態で評価・選抜することが通常となった現在に生じているバイアスに関する原因の探求および補正の検討において重要な知見となる。
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