研究課題
申請者のこれまでの研究から、神経細胞の機能や生存に必須なプロテアソームやオートファジーなどのタンパク質品質管理機構が、神経向性フラビウイルスの増殖に利用され、破綻する可能性が示されている。本研究の目的は、フラビウイルス性脳炎の病態形成機構におけるタンパク質品質管理機構の重要性を明らかにすることである。神経向性フラビウイルスであるウエストナイルウイルス (WNV)が感染した神経細胞では、タンパク質品質管理機構が破綻した際に認められる変性タンパク質の蓄積が認められる。WNVのゲノムにコードされている10個のウイルスタンパク質をそれぞれに細胞に発現させた結果、Capsid(C)タンパク質が変性タンパク質の蓄積を誘導することが明らかになり、さらに蓄積に重要なアミノ酸も同定された。WNV感染細胞ではプロテアソームには影響がないが、オートファジーが阻害されることが明らかになり、この阻害はCタンパク質に変異を導入したWNVでは認められなかった。これらの結果から、Cタンパク質がオートファジーを抑制することが示唆され、オートファジー誘導因子との結合を解析した結果、最上流のAMPKがCタンパク質と結合し、分解されることが明らかになった。また、Cタンパク質に変異を導入したWNVを病態モデルであるマウスに接種した結果、死亡率が野生型に比較して有意に低下した。これらの結果から、Cタンパク質とAMPKの結合によるオートファジーの抑制がWNV感染の病態形成機序の一因となることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究計画では、神経向性フラビウイルスのウイルス粒子の形成、出芽、放出過程に影響を受けるタンパク質品質管理機構の特定、影響するウイルス因子および、宿主因子を明らかにする予定であった。これらの解析により、上述の過程とは異なるが、Cタンパク質の細胞内発現によりタンパク質品質管理機構であるオートファジーを抑制されることが明らかになった。さらにCタンパク質はオートファジー誘導因子の1つであるAMPKと結合し、ユビキチン・プロテアソーム系によってAMPKを分解させることも明らかにしている。これらの結果を基に、AMPKとの結合領域に変異を持つWNVを作出し、マウスを用いて病原性解析を実施した結果、変異ウイルスの病原性が低下することも明らかとなった。現在、AMPKのウイルス感染に与える影響やCタンパク質とAMPKの結合領域の特定を実施しており、AMPKの結合領域を細胞に発現させるとウイルス感染による細胞死が抑制されることが明らかになってきた。今後、WNV感染におけるAMPKの機能について詳細に解析し、WNV感染による脳炎の治療について検討していく予定である。また、Cタンパク質と結合する宿主因子を質量分析法により網羅的に解析し、AMPKの分解や、その他に変性タンパク質の蓄積につながる結合タンパク質について、ユビキチン・プロテアソーム分解系に関連するタンパク質を中心に検討している。
本年度はCタンパク質とAMPKの結合に着目し、結合の阻害によるウイルスの増殖や細胞の機能に与える影響について詳細に検討する。さらに、AMPKの結合領域を可能な限り短い領域で特定し、結合領域のペプチドがフラビウイルス性脳炎に対する治療効果および、細胞や生体にもたらすに影響について検討する。また、解析中のCタンパク質と結合する宿主タンパク質から、ユビキチン・プロテアソーム分解系に関連するタンパク質を抽出し、Cタンパク質との相互作用や、ウイルス増殖への影響ならびに病原性との関連について遺伝子改変技術を用いて解析する。さらに、これらのタンパク質複合体は変性タンパク質の蓄積誘導に関連しており、超遠心機を用いて分離可能であることが報告されている。候補が多数で絞り込みが困難な場合を想定して、WNV感染細胞またはCタンパク質発現細胞を超遠心機により分離、精製後、再び質量分析法により解析を実施する。
(理由)研究計画の進行の都合により、平成30年度に実施する予定の実験を次年度に持ち越したため、次年度使用額が生じた。(使用計画)研究を申請時の計画に従い実施し、平成30年度の研究計画の結果生じた使用額については、次年度研究費と合わせ、必要な試薬、消耗品費として使用する。また、研究成果を報告できる場合、国内学会参加の旅費として使用する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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