研究課題/領域番号 |
18K14575
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
青島 圭佑 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (90745069)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 血管肉腫 / エピジェネティクス / 腫瘍 / イヌ |
研究実績の概要 |
イヌ血管肉腫培養株を用いてその分化機構におけるヒストン修飾および修飾酵素の役割を調べた。その中からヒストンH3K36me2/3の脱メチル化酵素である KDM2B が血管肉腫培養細胞株の生存に不可欠であることを発見した。KDM2B はイヌ血管肉腫培養細胞株および臨床検体中で高発現しており,その遺伝子発現を RNAi 法において阻害すると血管肉腫細胞株は死に至る。また,KDM2B の機能も阻害するヒストン脱メチル化酵素阻害剤 GSK-J4 を用いても同様の結果が認められた。更に KDM2B をイヌ正常血管内皮細胞にて過剰発現させると,細胞は不死化した。 これらの結果は KDM2B がイヌ血管肉腫の生存・増殖に必須であることを示しており,正常血管内皮細胞をも癌化させる機能を有している可能性が考えられる。イヌ血管肉腫の原因となる遺伝子は未だ同定されていない。本研究の成果は未だ有効な治療法のないイヌ血管肉腫に対する新たな治療標的を示すものである。また,KDM2B 過剰発現により正常血管内皮細胞が実際に癌化しているのであれば,正常血管内皮細胞の癌化機構の解明,また遺伝子診断等における血管肉腫発生のリスク評価にも応用することが可能になる。 今後は KDM2B の in vivo での役割を調べ,分化機構および未分化性維持機構における役割についても調べていく。また,正常血管内皮細胞における役割についても解析を進め,KDM2B の過剰発現により血管内皮細胞が癌化するかどうかを確かめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストン修飾酵素のスクリーニングが早い段階に終了し,標的候補となり得る遺伝子を同定することができた。 また,その遺伝子について in vitro での解析を進めることができ,血管肉腫培養細胞の増殖に深く関与していることが明らかとなった。このため,次年度に向けた基礎的知見を得ることができ,今後の研究の発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1. KDM2B が血管肉腫の病態に重要であることを確かめる。 in vitro および in vivo の条件において,KDM2B が血管肉腫の増殖・生存にどのように関与しているかを明らかにする。具体的には培養細胞を用いて mRNA-seq を行い下流遺伝子群を同定し,KDM2B により引き起こされる遺伝子発現プロファイルの変化を明らかにする。また,その中で血管肉腫の増殖・生存に深く関わる遺伝子を同定する。in vivo では免疫不全マウスを用いて腫瘍細胞移植を行い,候補遺伝子のノックダウンによる影響を調べる。更にイヌ正常血管内皮細胞に KDM2B を過剰発現させ,それを免疫不全マウスに移植することによって,腫瘍形成能を獲得しているかどうかを調べる。
2. マウス血管肉腫モデルの作成 正常血管内皮細胞の KDM2B を導入することで,細胞に腫瘍形成能を与えることができれば,それは KDM2B 導入細胞ががん幹細胞として機能していることとなる。実際の臨床症例においては,腫瘍の形成にはがん幹細胞と周囲の微小環境,特に免疫細胞とのコミュニケーションが病態形成に重要である。そこで,正常免疫環境における血管肉腫の病態を調べるために,マウス血管肉腫モデルを作成する。具体的にはマウスから血管内皮細胞を分離し,そこに KDM2B を導入する。不死化した細胞を同系統のマウスに移植することで,血管肉腫が形成されるかどうかを調べる。KDM2Bのみで不可能な場合には PTEN や p53 などがん抑制遺伝子を CRISP/Cas9 を用いてノックアウトする。
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