脂質は節足動物の主要栄養素であると同時に節足動物媒介性ウイルス(アルボウイルス)を構成する成分でもある。このため、蚊の脂質を輸送する蛋白質がアルボウイルスの感染に関わっていると仮定した。前年度、2本鎖RNA(dsRNA)のノックダウン系を用いて、脂質輸送蛋白質であるヴィテロジェニンAがラクロスウイルスの垂直感染に関わっている可能性が示された。 今年度は蚊でのウイルスの垂直感染におけるdsRNAの影響を検証するために、dsRNAを接種していない蚊での垂直感染率を検証した。33匹のヒトスジシマカに人工吸血装置を用いて2 x 106/mlのウイルスを経口接種し、垂直感染率を解析したところ21%であった。これはdsRNAの緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子を投与した前回の実験の垂直感染率(20%)とほぼ同様であった。このことからdsRNAの投与による垂直感染への影響は少ないと考えられた。 また感染蚊でのウイルスの分布を解析するために、感染と非感染のヒトスジシマカを用いて病理組織学的解析を行った。上記の実験で作製したラクロスウイルス感染ヒトスジシマカ(感染後22日目)を4%パラホルムアルデヒドで24時間固定し、パラフィン標本を作製した。ついで、感染ウイルスの局在を調べるためにマウス抗ラクロスウイルス抗体を用いて免疫染色を行った。 ウイルス抗原は中腸上皮で認められたのに対して、後腸では認められなかった。また卵胞にウイルス抗原が認められた。今後は脂質輸送蛋白質がノックダウンしている蚊でも同様の解析を行い、ウイルス抗原の分布の違いを検証したい。
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