研究実績の概要 |
イヌの腫瘍疾患は、特定の腫瘍が特定の犬種に好発する傾向があり、犬種の背景にある遺伝的素因がその病態発生に深く関与すると考えられる。本研究では、特定犬種に好発する腫瘍疾患について、犬種という軸から比較病態解析を行うことで、その背景に潜んでいる癌の発生メカニズムを探索する。平成30年度では、主に罹患症例の臨床情報の収集・整理を行なった。東京大学獣医病理学研究室に蓄積されたデータベースを利用し、腫瘍疾患発生状況に関する疫学的調査を行なった。犬の皮膚腫瘍の犬種・発生部位・診断名に関する発生状況を調査し、令和1年度に国内雑誌に発表した。本研究では1,435症例の病理診断結果を用いて国内における犬の皮膚腫瘍の好発犬種を新たに特定することができたが、より詳細な結果を得るためにはサンプルサイズが不十分であることが示唆されていた。 そこで、令和1年度では、東京大学附属動物医療センターの電子カルテシステムを用い、更に踏み込んで大規模な疫学解析を試みた。2013年から2018年に本センターの電子カルテに登録された9,803頭の犬の診断情報をビッグデータとして抽出し、各犬種における好発疾患を解析した結果、600,628個(4,516疾患×133犬種)の組み合わせのうち、788個が他の組み合わせと比較して罹患率が有意に高く、うち192個が腫瘍性疾患であった。多くの腫瘍疾患で犬種特異性が認められ、その中には「ゴールデン・レトリバーと血管肉腫」など、広く知られている組み合わせが多く含まれていたが、「ミニチュア・ダックスフンドと軟骨肉腫」「ミニチュア・ダックスフンドと前立腺癌」など、これまでに知られていない組み合わせも多数抽出され、新規の犬種好発疾患である可能性が示唆された。初年度と比較し2年目では粒度の高い結果を得ることができ、今後の病態解析を進めるにあたり基盤となりうる内容であった。本研究の結果については現在投稿中である。
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