本研究は、犬において血漿中の微量DNA(cfDNA)を測定することで、腫瘍の早期発見が行えるかを検討するために企画した。2018年8月1日から2020年3月31日までに山口大学動物医療センターを来院した症例より同意を得て検体を採取した。最終的に、健常群12頭、疾患群57頭(非腫瘍性疾患犬9頭、腫瘍罹患犬48頭)が研究に組み入れられた。EDTA採血管に採取した血液を速やかに分離し、2mlの血漿を抽出時まで-30℃にて保管した。cfDNAの抽出にはDNeasy Blood & Tissue Kitと、Circulating Nucleic Acid Kitの2種類を用いたが、健常犬での検討の結果、後者は前者の約10倍程度の収量でcfDNAを抽出することが可能であった。 抽出したcfDNAはQubit3.0 dsDNA HSにより二本鎖DNA特異的に測定を実施した。cfDNA濃度は健常群、疾患群においてそれぞれ中央値0.299、0.481ng/μLであり、Mann-Whitney U testの結果有意差が認められた。重回帰分析およびスピアマンの順位相関行列の結果、疾患群におけるcfDNA濃度はC反応性蛋白(CRP)の数値と相関が認められた。今回の研究では非腫瘍性疾患群の組入数が少なく、疾患も様々であったことから、腫瘍性疾患を中心に解析を行った。この際にも健常犬と比べて有意に高値であった。 良性腫瘍と悪性腫瘍の比較では、cfDNA濃度に有意差は認められなかった。一方、悪性腫瘍を上皮系、非上皮系、血液系(独立円形細胞系)に分けて解析を行ったところ、血液系の悪性腫瘍はその他の悪性腫瘍より有意に高いcfDNA濃度を示すことが明らかとなった。過去の報告において転移の有無はcfDNAの放出と相関することが示されているが、本研究では転移との関連性は認められなかった。
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