採食エンリッチメント技術に、野生の採食物を取り入れる場合、それらを分解・消化できる腸内細菌を有しているかどうがか非常に重要である。また飼育ロリスは、これまで糖質の多給を原因とする口腔疾患の多発が報告されてきたため、口腔疾患の予防も採食エンリッチメントを考える上で非常に重要であると考えられる。 本年度は、昨年度から継続して行なっている飼育ロリスの口腔疾患予防効果調査と実際の口腔細菌や腸内細菌への影響を考えた食事内容の見直しを実践した。口腔細菌の糖資化性試験をさらに詳細に行った結果、口腔疾患原因菌(FusobacteriumやBacteroides属細菌)は、デンプンとグルコース、デンプンとフルクトースの同時給与によって、増殖することが明らかになった。単体給与ではデンプンが最も歯周病態の悪化に繋がることが示唆されたため、動物園と協力して、デンプンが多く含まれるペレットを停止し、野生の採食品目である樹液の主成分であるアラビアガムの給餌量を減らす試みを行っていたが、本年度はそれに加えてリンゴなどフルクトースを多く含む果実の給餌の制限もおこなった。総合的な栄養などを加味し、ペレットと果実を制限する代わりにアラビアガムと昆虫の給餌を増やした結果、野生下の体重とおおよそ同程度の適正体重になったほか、口腔検査では、口腔疾患の原因菌となる歯垢や歯石の沈着が非常に少ないという結果を得た。 これまでのロリスの腸内及び口腔細菌調査の結果から、アラビアガムや昆虫の成分であるキチンを分解する特徴的な腸内細菌を有していること、またアラビアガムは歯周病菌を増殖させないことが明らかになった。またこうしたロリスに適した食事に変更することにより適正な体重を維持できることが本実践で証明されたため、今後はこれらの食事内容を基本食として提案できるよう、適正な栄養状態を評価する指標の検討が必要である。
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