伴侶動物の膀胱腫瘍は90%が悪性腫瘍である。外科治療として腫瘍の広範囲の切除が望まれるが、腫瘍の浸潤が強く膀胱全てを摘出する場合、または膀胱から尿管までを摘出する場合には手術後の排尿管理、創傷ケア等が伴侶動物および飼い主の負担となる。また腫瘍により尿路の閉塞が生じている場合は、早急な尿路の確保および腫瘍の切除が必要となるが、動物用の人工膀胱・尿管は存在しないため、生活の質の改善は難しい。本研究では、体内に鋳型を埋入することで移植用組織体ができあがる「生体内組織形成術」を利用し自己の細胞から構成された膀胱用移植用組織体(バイオシート)ならびに尿管用移植用組織体(バイオチューブ)を作製し移植評価を行った。犬の皮下に埋入した鋳型から得られたバイオシートの厚さは0.72±0.17 mmであり、主に線維芽細胞およびコラーゲン線維から構成された。単位破断荷重は2.30±1.09 N/mmであり、生体材料の一つである豚小腸粘膜下組織と同等の強度であった。犬の膀胱体部を一部欠損させ、2×2 cmのバイオシートを移植した。移植後84日目まで膀胱壁の破綻、石灰化および結石形成は認められず、組織学的評価にてバイオシートの内腔面は移行上皮により被覆され、αSMA陽性細胞が認められた。同様に尿管を模した管状構造のバイオチューブを犬の皮下で作製した。得られたバイオチューブは尿管への移植手技に対する耐久性を確認できたが、移植14日目までに閉塞を認めた。管状構造を体内で維持するためポリ乳酸ステントを組み込んだバイオチューブを作製したが、移植後30日目までに閉塞を認めた。バイオチューブは経済性に優れた尿管用の移植用組織体として期待できるが、更なる検討が必要であると考えられた。一方、バイオシートは、膀胱腫瘍の治療において新たな移植用組織体となり得る可能性が示された。
|