研究実績の概要 |
中枢神経組織の障害は、永久的な運動・感覚機能障害を引き起こし、重篤な場合は死に至る。近年、幹細胞移植による中枢神経の機能再生が試みられているが、有効な治療法は確立されていない。本研究で、申請者は脱分化脂肪細胞に注目した。脂肪から得られ、生体外での増殖能を持つため、再生医療の細胞源として期待されている。しかしながら、脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングはヒトやマウスでも報告されていない。申請者は、イヌの骨髄間質細胞の神経分化について塩基性線維芽細胞成長因子が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた(Nakano et al., PLOS ONE, 2015, Nakano et al., J.V.M.S., 2015, Nakano et al., A.J.V.R., 2013)。さらに、イヌの脱分化脂肪細胞では、bFGFを基本とした分化方法にレチノイン酸を添加することで、神経分化が起こることを見出した。本研究では、ヒト脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングの達成を目的として研究を行った。 まず、ヒト脱分化脂肪細胞に、イヌ脱分化脂肪細胞と同様に塩基性線維芽細胞成長因子およびレチノイン酸による処理を行った。しかし、イヌと同様のリプログラミングシステムでは、ヒトの場合は、神経細胞へのリプログラミングを確認できなかった。そこで、ヒト脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングに関わる因子をスクリーニングし、低分子化合物を含んだ神経リプログラミング培地を開発した。リプログラミング培地で処理した細胞は、時間依存的に神経細胞マーカーの発現が上昇しすることを見出した。 以上のように、ヒト脱分化脂肪細胞の神経リプログラミングを可能とするシステムの開発に成功した。
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