研究課題/領域番号 |
18K14595
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
越後谷 裕介 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90609950)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核酸医薬 / 日本脳炎 / アンチセンス核酸 / RNA分解 |
研究実績の概要 |
アンチセンス人工核酸(antisense oligonucleotide, ASO)を用いた核酸医薬は、従来の医薬品では標的にできなかったメッセンジャー(m)RNAに特異的に作用し薬効を示すことから、遺伝性神経筋疾患のみならずウイルス性疾患に対する新たな治療戦略として注目されている。本研究ではmRNAと同じプラス一本鎖RNAをゲノムとして持つ日本脳炎ウイルス(Japanese Encephalitis Virus, JEV)に対して増殖抑制効果を示すASOの作用機序・薬効を明らかにし、抗ウイルスASOの開発基盤の確立を目指す。 令和2年度は、これまでに明らかとなった有意なJEV増殖抑制効果を示す複数のRNA分解型ASO (ASO gapmer)から、効果が高かった配列の濃度依存的な薬効、および修飾核酸の配合によりJEV増殖抑制効果が異なることを明らかにした。またJEV RNAの二次構造予測解析から、JEV RNA内で形成される特定の領域をASO gapmerで標的にすることにより、高いJEV増殖抑制が誘導されることが示された。 またASO gapmerの比較対照に設定したRNAの構造阻害型ASO(ASO mixmer)のJEVに対する増殖抑制効果を調べたところ、ASO mixmerにおいても高い抗JEV活性を有することが明らかとなり、現在ASOに使用している修飾核酸がJEV RNAの分解および構造阻害を介して感染ウイルス粒子の複製を阻害できることを明らかにした。さらに、本修飾核酸で構成されるASOの配列特異的なJEV増殖阻害、およびJEV感染ヒト神経細胞に対する薬理効果が明らかとなり、日本脳炎に対する核酸医薬開発を支持する重要な結果が得られた。これらの結果を基盤に、現在本邦で流行しているJEV野外株への効果について解析を進め、マウスを用いた生体効果を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに細胞実験により、RNA分解型アンチセンス核酸(ASO gapmer)が日本脳炎ウイルス(JEV)に対して有意な増殖抑制効果を示すことを明らかにした。しかし、新型コロナウイルス蔓延により研究活動が制限されたため、予定していた実験を十分に実施することができなかった。そのような中で、本試験で使用している修飾核酸がin vitro試験においてJEV RNAの機能的配列を構造的に阻害することでASO gapmerと同等の抗ウイルス作用を示したことは予期せぬ発見であり、今後のウイルス感染症に対する核酸医薬の開発において極めて重要な情報になると考えられる。昨年度課題となったASOの細胞毒性による抗ウイルス効果への影響については、細胞へのJEV感染方法およびASO gapmerのトラスフェクションの最適化によって解決され、JEVに対するASOの効果をヒト神経細胞で精度高く評価できる試験法の確立に成功した。 予定していたJEV流行株を用いた試験、および感染マウスの試験は予定より遅れている状況ではあるが、上記のように本申請研究の主眼であるASO gapmerのJEV増殖抑制効果の証明は概ね達成することができた。本結果はウイルスに対する核酸医薬の開発に大きく貢献できる成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度までにJEVに対して有意な増殖抑制効果を示すASO gapmerの配列および組成がin vitro試験において決定された。今後は本邦で流行域を拡大している野外JEV株に対するASO gapmerの増殖抑制効果、JEV RNAへの配列特異的な薬理作用、およびマウス生体での治療効果を中心に解析を進める。これらの効果は、引き続きプラークアッセイによるJEV感染粒子数、免疫染色およびRT-PCR法を用いた感染細胞内のJEV粒子数の変化を指標として解析する。さらに、ASO gapmerがJEV RNAを配列特異的に分解できることを生化学的手法で証明し、抗ウイルスASO gapmerの開発基盤の構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルスの影響により所属機関への出勤および活動制限により予定した実験計画を十分に実施することができなかったため、次年度使用額が発生した。具体的には、本研究で開発したアンチセンス人工核酸の配列特異的なウイルス増殖抑制効果の確認、および感染マウスにおける薬効試験の実施が延期された。繰り越された直接経費は左記の実験に使用すると共に、成果の学会発表または論文公表にかかる費用として使用を計画している。
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