研究課題/領域番号 |
18K14596
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
常盤 俊大 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (50757755)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 寄生虫 / ジビエ / イノシシ / 野生動物 / マダニ媒介感染症 |
研究実績の概要 |
へパトゾーン属はアピコンプレックス門アデレア目に属する偏性寄生性の原虫で、食肉動物やげっ歯類、爬虫類、両生類、鳥類などを固有宿主とする。本属のうちイヌ寄生種は、しばしば宿主に病気を引き起こすことから獣医学上重要な病原体としても知られる。申請者らは、有害鳥獣の保有病原体の調査過程において、有蹄類で記載のない本属原虫を検出し、<I>Hepatozoon apri</I>と命名した。今回、本種について生物学的特徴、流行状況、病原性の解明を目的とした研究を行った。当該年度に明らかになったことは以下のとおりである。 1)イノシシ体内における各発育段階(ガモント、ミクロメロント、マクロメロントおよびメロゾイト)の形態学的特徴を明らかにした。白血球内のガモント寄生率は0.03~0.20%と低値であった。組織標本上の各種メロントの形態は、サルコシスティ巣属原虫のサルコシストのそれとサイズが類似していたが、内容や壁構造からHE染色でも区別することが可能であった。 2)イノシシにおける感染状況調査にあたって、血球寄生率が低く、新鮮血液の入手が困難であることから、筋肉を検体とした特異PCR法を開発した。本法を用いて、四国で捕獲されたイノシシ筋肉181頭を調べたところ、53%(96/181頭)に遺伝子増幅が認められた。他方、同地域で捕獲されたニホンジジカ113頭は全て陰性であった。 3)他の動物寄生種との系統関係について調べた。18S rRNA遺伝子配列を用いた分子系統解析では、食肉動物寄生種から構成されるクレード内に位置し、タイのイノシシ付着カクマダニ属由来未記載種の配列と単系統群を形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度までにおいて、へパトゾーン属としては有蹄類で初めてとなる新種の記載を記載を行い、またイノシシ体内における各種発育段階の確認に成功した。また、特異PCR法を開発し、イノシシにおける感染状況を明らかにすることができた。一方、当該年度において、複数の調査対象地域で豚コレラの発生が発生し、イノシシにも感染個体が認められたことで、イノシシ検体の確保が十分にできなかった。今後、調査地域を増やし、他の地域のイノシシにおける感染状況の調査ならびに体表に付着するマダニ類の確保を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度以降は、ベクター(終宿主)となるマダニ類の特定および国内各地のイノシシにおける感染状況を明らかにしたいと考える。前者については、イノシシの感染率が高い地域を中心に、その体表に付着するマダニを回収し、血体腔内のオーシストの検出を試みるほか、マダニ類人工吸血システムの構築と、ガモント陽性イノシシ血液を用いたマダニ類への実験感染およびそれらの体内における発育過程について検討する。後者については有害捕獲されるイノシシおよび市場に流通するイノシシ肉を検体として、各種メロントの肉眼的検出法の検討と、国内のイノシシにおける感染状況を調査を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果公表のためのAPC(article publishing charge, 約 USD 1800)として確保していたが、リジェクトされたため。当該助成金は次年度のAPCとして用いる予定である。
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