研究実績の概要 |
へパトゾーン属は偏性寄生性の原虫で、食肉動物やげっ歯類、爬虫類、両生類、鳥類などを固有宿主とする。本属のうちしばしば宿主動物に病気を引き起こすことから獣医学上重要な病原体としても知られる。申請者らは、有害鳥獣の保有病原体の調査過程において、イノシシに本属原虫の感染を認めたことから、その分類学的特徴および生物学的特徴を調べた。 1)イノシシの血液、筋肉、心臓、肝臓、腎臓、脾臓について精査した。好中球に寄生するガメートサイトおよび骨格筋に寄生するメロントの形態学的特徴を明らかにしHepatozoon apriと新種記載した。 2)Hepatozoon属原虫のうち偶蹄類を宿主とする種は本種が初であるため、遺伝子解析によりアデレア類における系統学的位置を調べた。H. apriは肉食動物(イヌ、ネコ、イタチ類)寄生のHepatozoon属とともに単系統を形成し、他の動物(齧歯類、鳥類、爬虫類)に寄生するいわゆるHepatozoon属(Karyolysus属、Hemolivia属、Bartazoon属を含む)と区別できた。 3)イノシシにおけるH. apriの感染状況調査を調べるため、筋肉を検体としたsemi-nested PCR法を開発し、徳島県で捕獲された181頭を調べたところ53%で遺伝子増幅を認めた。他方、同地域のニホンジジカ113頭は全て陰性であった。この他、岐阜県のイノシシおよび複数地域(広島、島根、山口、長崎産と表記)の市販イノシシ肉で陽性を認めたことから、国内の野生イノシシに広く流行していることが示された。 4)ベクターの特定を試みた。イノシシ体表より回収したマダニ類1,027個体を回収し、形態学観察により種・発育段階を同定後した。マダニ成虫93個体について生理食塩水中で解剖し、実態顕微鏡下で血体腔内を精査したところ、オオトゲチマダニよりオーシスト様構造物を検出した。
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