アレルギー反応の基となる抗原特異的なIgE抗体の産生には、抗原提示細胞とTh2細胞、B細胞の三者間での物理的な接触と、抗原情報の受け渡しが必要である。本研究は、プロスタグランジンD2(PGD2)が、このIgE産生メカニズム果たす役割を解明することを目的としている。これまで、PGD2受容体の一つであるCRTH2受容体欠損が腹腔内もしくは経皮感作による抗原特異的IgE値の上昇を抑制すること、抗体産生が行われる脾臓やリンパ節では抗原刺激後にPGD2が大量に産生されること、を明らかにしてきた。本年度では、抗原を貪食してその情報を提示する抗原提示細胞の抗原情報提示能の低下に起因することを、抗原提示細胞特異的CRTH2欠損モデルを用いたin vivoの検討や骨髄由来樹状細胞を用いたin vitroにおける検討で明らかにした。さらに、その抗原情報をもとに抗体産生を開始する経路において中心的な役割を担う濾胞T細胞数が減少しており、抗体産生が盛に行われる場である胚中心の形成も減少していることも明らかにした。いずれの反応も生体内では極微小な反応でありこの差が顕在する期間を特定する検証に時間を要した。また、治療応用を念頭に既存のCRTH2阻害剤の効果を検討したところ、阻害剤の投与は腹腔内感作による抗体値の上昇を抑制した。 近年、アレルギーは生物毒に対する生体防御の役割を担うことが報告されている。CRTH2受容体欠損マウスでは食物抗原に対する抗体産生のみならず、生物(ハチ)毒に対する抗体産生も減少させた。その結果、毒に対して生じる体温低下などの生体反応が増悪して耐性が減弱することも見出した。CRTH2阻害はアレルギー疾患に対しては有益に働くが、生体防御としてのアレルギーに対しては有害に作用することを発見した。
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