本研究の目的は全能性を有する卵母細胞形成プロセスを分子レベルで解明し再構築することである。全能性は単一細胞からの個体発生能として定義され、主に卵細胞に備えられる。そこで、本研究が挑戦する学術的問いは、「卵を卵たらしめ、そして全能性を構成する因子群は何か?」である。本研究の目的は次の二つの大項目からなる。 1) 理解する: 全能性獲得を司る遺伝子群の同定と機能解明 2) 再構築する: 遺伝子導入による多能性細胞から全能性細胞への直接転換
本年度は2の再構築に挑戦した。前年度に同定されたMGAに必須の8因子をES細胞で強制発現させたところ、驚くことに、新生児卵巣に存在する原始卵胞卵に非常に近い卵母細胞様細胞にわずか5日で転換されていることが明らかになった。これはこれまで我々が樹立してきたin vitro oogenesis法で必要な20日間より大幅に短いことから、通常の卵母細胞発生過程をスキップした卵母細胞様細胞 (DIOLsと命名)がES細胞から転写因子によって直接誘導された可能性が示唆された。これを裏付けるように、通常卵母細胞形成過程で起こるはずの減数分裂とエピゲノムリプログラミングがこのDIOLsでは起こっていないことが示された。にもかかわらず、DIOLsと胎児卵巣の支持細胞と混ぜて培養を進めたところ、DIOLsは支持細胞と協調して卵胞構造を形成し、成熟MII卵 (MII-DIOLs)に分化し、極体を放出した。加えて、このMII-DIOLsは受精能と卵割能を有し、2-4細胞期、そして低率ながら8細胞期まで発生することが観察された。これらのことから我々は全能性の基礎をなす卵母細胞形成プロセスの理解と再構築に成功したと言えるだろう。 一方で今回再構築に成功したのは主に卵母細胞の細胞質であり、核の再構築(減数分裂とDNAメチル化消去)が今後の喫緊の課題である。
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