これまで多くの生殖細胞変異がてんかん発症の原因として報告されているが、これらの変異のみでは、てんかん発作の多様性を十分に説明できない。先天的な遺伝子変異である生殖細胞変異に対して体細胞変異は後天的な変異である。近年、この体細胞変異が患者の脳から同定されており、てんかん発症に与える影響について関心が高まっている。 成人てんかんの約60%を占める焦点性てんかんは、特定の脳部位に限局して異常放電を発生し、その脳部位が司る機能に依存して、様々な症状を示す。GATOR1複合体の生殖細胞変異は、焦点性てんかん患者に最も認められる変異である。しかし、患者は同じ遺伝子変異を有する家系内であっても、多様な症状を示す。このことは、生殖細胞変異以外の病因が存在していることを示唆している。我々は、患者脳においてGATOR1複合体の体細胞変異の発生を明らかにした。このことから、生殖細胞変異に加えて体細胞変異が発生する「2-hit」が、てんかん発症に影響を与え、体細胞変異の発生箇所に依存して多様な症状が現れるとの仮説を立てた。 本研究では、これまでにcre-loxPシステムと、子宮内の胎児にDNAを導入するin utero electroporation法を組み合わせて、片側アリル欠損マウスの脳内に、体細胞変異を導入することにより、2-hitモデルマウスを作製したが、自発性のてんかん発作が認められず、患者から報告されている限局性皮質形成異常(FCD)も確認されなかった。そこで、計画を変更し、大脳皮質全体で、GATOR1複合体を構成する遺伝子を欠損させたマウスを作製し、FCD及び自発性てんかん発作を示すことを明らかにした。本年度は、GATOR1複合体の機能障害が、下流の遺伝子発現動態にどのような影響を与えるかを明らかにする目的でRNA-seq解析を行い、複数の遺伝子の有意な発現変動を確認した。
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