ラットの着床前胚の体外培養は難しく、体外培養した着床前胚を仮親の子宮に戻した際の出生率が低い。前年度において、研究代表者は、体外培養したラット着床前胚の発生率(出生率)が低下する要因としてDNA損傷に着目し、コメットアッセイにより着床前胚のDNA損傷を分析した。体外培養した胚のDNAは、体内培養した胚に比較してDNA損傷が亢進していることを確認した。さらに、培地中のアミノ酸によって、そのDNA損傷が軽減することがわかった。次に、DNA損傷の要因として、酸化ストレスが関与しているのではないかと考え、酸化ストレスを検出するプローブで着床前胚を染色した。その結果、体内発生胚と体外発生胚では、ミトコンドリアにおける酸化ストレス(ミトコンドリアの活性)に違いがあることを確認した。一般的にミトコンドリアはアポトーシスに関与していると考えられているため、体外培養した着床前胚の発生率(出生率)が低下している要因として、ミトコンドリアによるエネルギー代謝異常をトリガーとしたアポトーシスによるものではないかと考察している。体内発生胚と体外発生胚においては、アミノ酸代謝経路をはじめとして、上述のようなエネルギー代謝やアポトーシス刺激経路等、様々な代謝経路の遺伝子発現に違いがあることが予想される。両者の違いを網羅的に明らかにするため、本年度は、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)を行った。その結果、体内発生胚と体外発生胚においては、約3900の遺伝子発現に違いがあることを検出した。さらに、このRNA-seqデータについて、公開データベースを利用したパスウェイ解析および遺伝子オントロジー解析を実施した結果、アミノ酸代謝、エネルギー糖代謝経路、アポトーシスに関連する遺伝子群の発現が変動していることがわかった。これは上記の考察を裏付けする結果であると考えている。
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