マウス人工染色体(MAC)ベクターとは、マウス染色体の遺伝子領域を限りなく取り除き、loxP配列などの組換え配列を搭載することで、外来遺伝子の導入を可能にしたベクターである。MACベクターを保持するトランスクロモソミック(Tc)マウスが数多く作製されているが、雄のTcマウスに由来するMACベクターの子孫伝達率は低いことが報告されている。この課題を改善すべく、本研究ではX-Y染色体間で高い相同性を示す擬似常染色体領域(PAR)を搭載した新規マウス人工染色体を樹立し、減数分裂過程におけるその動向を解析することを試みた。これまでにPAR領域の上流にloxP配列とネオマイシン耐性遺伝子をKIしたloxP-PARマウス、並びに、マウス11番染色体のセントロメア付近にホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK)プロモーターとloxP配列をノックインした11-loxPマウスを作製した。これらのマウスを交配させてダブルKIマウスを作製し、PAR領域をマウス11番染色体のセントロメア付近に転座させた新しい小型マウス人工染色体の構築を試みた。しかしながら、繁殖させたloxP-PARマウスにおいてPAR領域の境界付近に変異が見られたため、loxP-PARマウスの作製方法を見直して、改良型loxP-PARマウスを再作製した。本年度は、まず改良型loxP-PARマウスの遺伝子解析を行ったが、繁殖させたマウスを遺伝子解析すると、その結果が不安定になる現象が見られた。現在、このマウスの全ゲノム解析を行っている。先に作製したloxP-PARマウスに変異が見つかったことも含め、PAR境界付近にKIすること自体に問題がある可能性が考えられた。以上の結果から、PAR領域へ遺伝子改変を行ったマウスは、その作製に成功したとしても、そのマウスを繁殖・維持する過程で目的の遺伝子改変に変異が生じやすい可能性が示唆された。
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