研究課題/領域番号 |
18K14622
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸 雄介 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 講師 (00645236)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / クロマチン / Hmga2 / ポリコーム |
研究実績の概要 |
脳の高次機能をつかさどる大脳新皮質の幹細胞である神経幹細胞は、発生時期依存的にその性質を大きく変化させることが知られている。発生早期においては、盛んに増殖を繰り返すことで神経幹細胞の数を増やし(増殖期)、発生中期にはニューロンを産生する(ニューロン分化期)。その後、発生後期になるとニューロンは産生しなくなりアストロサイトなどのグリア細胞を産生する(グリア分化期)。この神経幹細胞の運命転換のタイミングを制御することは、最終的な脳の大きさや機能を決定するため、厳密に決定される必要がある。 本年度は、Hmga2と関わりが深いポリコーム群タンパク質(PcG)の制御について検討を行った。ニューロン分化関連遺伝子は、ニューロン分化期の神経幹細胞においては分化刺激に応答して転写が可能な「一過的な抑制」を受けているが、グリア分化期に入ると分化刺激があっても転写が不可能な「永続的な抑制」に変化する。PcGはニューロン分化関連遺伝子の「一過的な抑制」と「永続的な抑制」の両方に重要であることを示してきていたが、それがどう使い分けられているかは不明であった。驚いたことにニューロン分化期の「一過的な抑制」にはRing1のH2Aユビキチン化活性が必要だが、グリア分化期の「永続的な抑制」には必要ないことがわかった。また、「一過的な抑制」から「永続的な抑制」に移行するためにはヒストン脱アセチル化が重要なこと、「永続的な抑制」にはRing1のユビキチン化活性ではなくPcGタンパク質同士の凝集が重要なことを示唆する結果を得た。このことから、神経幹細胞のみならず様々な幹細胞の分化運命制御に重要なPcGはその機能を使い分けることで、分化能を適切に制御している、という仮説を提唱した(Tsuboi, Kishi, Dev. Cell, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Hmga2と関わりが深いポリコームによる神経幹細胞の制御について明らかにし、論文報告することができた。 また、Hmga2自身の制御についても、これまでの機能解析から、1, 増殖期からノックダウンすると神経幹細胞のニューロン開始が遅れること、2, 増殖期からノックダウンすると神経幹細胞の遺伝子発現プロファイルがニューロン分化期様にはならず、増殖期様のままになってしまうこと、3, 増殖期からノックアウトすると生後直後の脳サイズが小さくなること、を見出している。このことから、Hmga2は神経幹細胞の増殖期からニューロン分化期への移行を正に制御していると考えている。 また、同様に増殖期からニューロン分化期にかけての神経幹細胞の遺伝子発現プロファイルを単一細胞RNA-seqやATAC-seqなどで追跡する実験を行っている。ATAC-seqの結果からは、Hmga2が増殖期からニューロン分化期へのクロマチン構造変化を制御する可能性を示唆するデータが得られている。さらにこれらの網羅的解析から他にも増殖期からニューロン分化期への転換を司る遺伝子の候補をあげることができた。 以上、2018年度は様々なポイントでの進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は以下の2点について検討を行う。 1, Hmga2が神経幹細胞の性質に与える影響について、さらに検討する。特にニューロン分化の開始に関わることはわかっているが、増殖期の特徴についても検討する。また、ノックアウトマウスが実験に使えるようになってきたので、増殖期からノックアウトした時の神経幹細胞の性質、遺伝子発現プロファイル、クロマチン構造について調べる。 2, 2018年度に行った単一細胞RNA-seqやATAC-seqの結果を踏まえ、Hmga2以外にも神経幹細胞の運命を司る因子の道程を目指す。すでに20-30遺伝子まで絞り込んでいるので、これらについてそれぞれノックダウンウィルスを作製し、申請者が独自に開発したE8遺伝子導入法を用いてスクリーニングを実施する。
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