本研究は、脱ユビキチン化酵素USP8によるグルココルチコイド受容体の新規制御機構を明らかにすることを目的としている。USP8はグルココルチコイド抵抗性を起因として発症するクッシング病の原因遺伝子であり、USP8によるグルココルチコイド受容体の活性制御機構を明らかにすることは、クッシング病発症機構の解明、そして、その治療法開発に繋がる可能性が高い。 2018年度の研究成果から、USP8の機能阻害は、リガンド依存的なグルココルチコイド受容体の活性化を抑制するが、これまでグルココルチコイド受容体の活性制御に重要だと考えられていた細胞質における複合体形成、核内移行、核内でのホモ二量体形成に影響は観察されなかった。したがって、USP8は未知のメカニズムにより、グルココルチコイド受容体の活性を制御していることが示唆された。一方、これらの研究を進めていく中で、USP8がグルココルチコイド受容体の標的遺伝子のみならず、多数の遺伝子の発現制御に関わっていることを新たに見出した。 さらに、2019年度に行ったプロテオミクス、生化学、分子生物学的解析から、USP8の機能阻害などで引き起こされるエンドソームへのユビキチンの凝集をトリガーに、ユビキチン結合因子であるTAB2やp62がそれぞれ、TAB2/TAK1/NF-kB経路、p62/KEAP1/NRF2経路を活性化されることで、RANTES(CCL5)をはじめとした炎症性サイトカインの遺伝子発現が誘導されることを新たに明らかにした。このようなエンドソームへのユビキチンの蓄積が特定の細胞内シグナルを惹起する報告はなく、現在論文投稿中である。今後、本研究により新たに提唱された"エンドソームストレス"の生理的意義に迫りたい。
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