研究課題/領域番号 |
18K14630
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
尾上 耕一 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 助教 (70796523)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | RNA結合タンパク質 / mRNA分解 / 翻訳 |
研究実績の概要 |
本研究では、RNA結合タンパク質CPEBを介した遺伝子発現の調節に関わる分子メカニズムを、負と正の両方向の制御について、それぞれ癌遺伝子c-mycおよびリボヌクレオチド還元酵素RNR2のmRNAを対象に解明することを目的としている。 今年度は、負の制御に関する研究では、ゲルシフトアッセイによるin vitroでのCPEBのc-myc 3'UTRへの結合様式の解析を行った。c-myc 3'UTRにはCPEB結合のコンセンサス配列と非コンセンサス配列が存在するが、解離定数の算定とシフトパターンからコンセンサス配列への結合により非コンセンサス配列への親和性が高まることを明らかにした。また、これまでCPEBが負に遺伝子発現を制御する例はc-mycの他にほとんど報告がなかったが、CPEB過剰発現条件下でのRNA-seqデータの解析の結果、CPEB過剰発現時にmRNA発現が減少するものが多数存在することが判明した。これらの中から、有意に発現減少していたものを対象に3'UTR配列の有無を調べ、CPEB結合配列を有するものを候補として抽出した。正の制御に関する研究では、より正確に定量的な実験を行うため、siRNAによるノックダウンからCRISPR-Cas9システムを利用したノックアウトを行うことへと計画を変更した。CPEB, PAPD7のノックアウト細胞を作製し、これらノックアウト細胞でDNA傷害時のRNR2発現の制御においてsiRNAの場合と同様の結果が得られることを確認した。また、細胞生存率およびdNTP産生量の測定に関して、予備検討を行い実験系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、R2の発現調節に関する解析をsiRNAを利用したノックダウン下で行う予定としていたが、ノックダウンによる細胞増殖への影響から、細胞生存率やdNTP産生、ポリソーム分布の解析を正確に定量的に行うのが困難であることが判明した。より正確な定量的解析をするため、CRISPR-Cas9システムを利用したCPEB, PAPD7ノックアウト細胞の作製に着手したが、その細胞株の樹立に想定よりも時間を要してしまった。また、c-myc mRNAとCPEBとの相互作用に関する解析では、メーカーによる樹脂の改変(結合能の改善)の結果、従来使ってきた方法では十分なタンパク質量が確保できなくなり、溶出条件の再検討を余儀なくされた。加えて、2019年1月より申請時の所属先から現所属先へと異動したため、研究環境を整えるのに時間を要する結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
負の制御に関する研究では、当初計画で予定していたCPEB組換えタンパク質を利用する実験に順次着手してゆくとともに、RNA-seqの結果から決定した候補を対象に、c-mycの場合と同様のレポーター実験を実施する予定である。 正の制御に関する研究では、作製したノックアウト細胞を用いて細胞生存率やdNTP産生、ポリソーム分布に関する実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、当初想定していたよりも進捗がやや遅れてしまい、予定していた研究を遂行できない状況が生じた。また、トラブルへの対処を優先し学会発表等も見送ったため、次年度への繰り越しが生じる結果となった。 繰り越した予算については、今年度の当初予定で未遂行のままの実験を実施するため、主に、細胞培養試薬・器具、生化学実験試薬・器具の購入に使用する予定である。また、国内外の学会発表および論文投稿による研究成果の報告を予定しているため、それらに掛かる費用も使用予定である。必要な機器類・設備等は揃っているため、大型機器の購入は予定していない。
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