本研究では、RNA結合タンパク質CPEBを介した負と正の両方向の遺伝子発現調節に関わる分子機構を、それぞれ癌遺伝子c-mycおよびリボヌクレオチド還元酵素RNR2のmRNAを対象に解明することを目的とした。 負の制御に関する研究では、CPEBのc-myc 3'UTRへの結合様式と、そのc-myc mRNA分解への寄与について解析した。c-myc 3'UTRにはCPEB結合のコンセンサス配列(cCPE)と非コンセンサス配列(ncCPE)が存在し、cCPEに結合したCPEBによりncCPEへの第2のCPEBの結合が促進されることをすでに明らかにしている。cCPEとncCPEに、種々の組み合わせで変異を導入した3'UTRレポーターmRNAを対象に、CPEBの過剰発現が与える影響を調べたところ、それ自体ではCPEB親和性の低いncCPEが分解に必須であることが判明した。一方、CPEBが強く結合できるcCPEそれ自体は、分解には直接関与していなかった。以上から、cCPEはncCPEへの第2のCPEB結合を促し、ncCPEに結合したCPEBがmRNA分解を引き起こすという、段階的な制御の仕組みがc-myc mRNA分解時に働くことが明らかとなった。 正の制御に関する研究では、DNA傷害時においてRNR2 mRNAのポリA鎖伸長と翻訳活性化が起こることを明らかとしていたが、それとは対照的に、平常時に構成的に発現しているmRNAはポリA鎖が短縮化され、翻訳が抑制されることを見出した。また、DNA傷害に応答したRNR2の発現上昇に、CPEBとポリAポリメラーゼPAPD7が必須であることをノックアウト実験により確認した。本研究の結果、DNA傷害時には、構成的mRNAの翻訳はポリA鎖分解により抑制されるが、RNR2 mRNAはCPEB-PAPD7によって選択的に翻訳活性化されることが明らかとなった。
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