“SINEUP”は、ターゲットmRNAのタンパク質翻訳機能を促進する非コードRNAであり、そこに含まれるレトロトランスポゾン遺伝子の“SINE”が、タンパク質翻訳機能を促進“UP”することから名付けられたが、作用機序はほとんど未知であった。 前年度にいくつかのSINEのRNA配列や2次構造を比較した結果、SINE RNA単体が所持する特性が、ターゲットmRNAのタンパク質翻訳機能を促進するということではなく、「SINEを取り巻く細胞環境によって機能が引き起こされている」という仮説が有力となったため、令和元年度においては、当初計画通り、「SINEUPと一緒に翻訳に関わっている因子の特定」を行った。研究実施計画に示した、SINEUP結合タンパク質の同定方法の実験最適化を行い、質量分析法を用いて、抽出したSINEUP結合タンパク質の解析を行った。その結果、PTBP1やHNRNPKなどの核-細胞質間輸送タンパク質、翻訳開始因子等がSINEUPおよび標的mRNAに関与していることが判明した。そこで、PTBP1およびHNRNPKのSINEUP・標的mRNAへの結合が、実際に機能に影響を与えているか、それぞれの遺伝子を培養細胞内でノックダウンして確認した結果、定常状態と比較してSINEUPの核から細胞質への輸送が減少し、核内繋留が認められ、細胞質でのSINEUP・標的mRNAの共局在の割合が減少した。さらに、PTBP1およびHNRNPK遺伝子を培養細胞内に過剰発現させたところ、定常状態と比較してSINEUPが標的遺伝子の翻訳を向上する割合が増加した。 研究全体を通した総合的な結果から、結論として、SINEは配列や2次構造に比較的低い類似性を保持しているが、機能維持に必須な蛋白質の認識部位を所有していることが示唆された。
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