研究課題/領域番号 |
18K14640
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
竹田 弘法 京都産業大学, 生命科学部, 学振特別研究員 (80816588)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / タンパク質の膜挿入 / SAM-Mdm10超複合体 / クライオ電子顕微鏡 / 構造生物学 |
研究実績の概要 |
本研究では、ミトコンドリア膜にタンパク質を挿入するSAM複合体タンパク質の機能をクライオ電子顕微鏡を用いて明らかにすることを目的としている。ミトコンドリアは外膜と内膜により二重に包まれた細胞小器官で、ATP産生・アポトーシス・物質代謝に重要である。ミトコンドリア外膜にはβシートで形成されるβバレルタンパク質が挿入されており、これらはタンパク質・金属イオン・有機分子などの輸送に必須である。これらのβバレルタンパク質をミトコンドリア外膜へ挿入するのが、SAM複合体タンパク質である。SAM複合体はβバレルタンパク質Sam50、可溶性タンパク質Sam35/Sam37で構成されている。SAM複合体は解かれた状態のβバレルタンパク質と結合して、βバレルになるように整形する。SAM複合体はMdm10と結合することによって、基質であるβバレルタンパク質を外膜へリリースする。しかし、SAM複合体がどのようにしてMdm10と協働しているかは不明であった。そこで、本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いた構造生物学的アプローチによって SAM-Mdm10超複合体の構造を決定し、その仕組みを明らかにすべく、研究に取り組んできた。当該年度では、SAM-Mdm10のGDNミセルサンプルとNanodiscサンプルをそれぞれ精製し、分解能2.8オングストロームの精密構造の決定に至っている。また、この構造に基づいたin vitro機能解析により、Mdm10が基質 Tom40 の外膜へのリリースに重要であることを見出した。本研究の成果はNatureに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的はSAM-Mdm10超複合体の精密構造をクライオ電子顕微鏡を用いて決定することである。2020年度にはSAM-Mdm10超複合体の構造を分解能2.9オングストロームで決定することに成功した。Sam50はMdm10とβバレルの側面で相互作用し、Sam37がMdm10のチャネルポア内へ貫通していた。この構造から、SAM複合体とMdm10との結合にはSam50/Sam37が重要であることがわかった。また、SAM-Mdm10超複合体の構造に基づいたin vitro機能解析により、基質であるβバレルタンパク質はMdm10が局在する位置で挿入され、そこにMdm10が入れ替わることで折り畳まれたβバレルタンパク質を外膜へリリースすることが明らかとなった。これらの研究成果はNatureに掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的はSAM-Mdm10超複合体が、βバレルに整形されたタンパク質をどのようにミトコンドリ外膜へリリースするのかを明らかにすることである。2020年度では、SAM-Mdm10超複合体の精密構造の決定に成功し、in vitro機能解析により、SAM-Mdm10超複合体の詳細な機能を明らかにし、この研究はNatureに掲載された。そのため、本研究の研究課題は達成されたと考えている。 2021年度からは、SAM複合体が解かれた状態となっている基質βバレルタンパク質をどのように折り畳むかを明らかにするため、SAM-substrate超複合体の構造機能研究に着手する。現時点で、基質βバレルタンパク質Tom40を折りたたんでいる途中のSAM複合体の精密構造をクライオ電子顕微鏡により決定することに成功した。さらにin vitro機能解析を進めることで、SAM複合体の詳細なタンパク質挿入メカニズムを明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度より、データ処理や論文作成に必要なAdobeやmicrosoftのソフトフェアを1年ごとのサブスクリプションに切り替えたため、次年度使用予定の研究費用を使用した。今後の使用計画については、すでに構造を決定したSAM複合体に基質であるTom40が結合したSAM-Tom40のクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に使用する。これまでに、SAM-Tom40の構造解析に十分な量の精製とクライオ構造解析を行っており、分解能4.3オングストロームの構造を得るに至っている。次年度からはさらなる高分解能構造を目指し、その構造をもとにin vitro機能解析を行うことで、さらに発展的な研究に取り組みたいと考えている。
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