研究課題/領域番号 |
18K14650
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 隆之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90817214)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シグナル制御 / システイン修飾 / 硫化水素 / パースルフィド |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者が光合成細菌から新規に同定した活性イオウ分子種(Reactive sulfur species; RSS)応答性転写因子SqrRのRSS応答機構および本細菌のRSS代謝系の解析を通じ、RSSシグナル伝達の分子機構を理解することを目指している。 本研究は、これまでに申請者が明らかにしたSqrRのRSS応答機構を踏まえて、1)細胞内のSqrRに対するRSSによる安定な修飾の種類の解明、および、2)SqrRの修飾に関わるRSSの代謝経路の決定を行うことで、RSSによるシグナル伝達の分子機構の詳細解明を試みている。SqrRはRSSによって2つの保存されたシステイン残基の間で分子内テトラスルフィド結合が形成され、標的遺伝子のオペレーター領域へのDNA結合親和性が低下することがわかっている。この修飾について、細胞内のメジャーなRSSであるグルタチオンパースルフィド(GSSH)とシステインパースルフィド(CysSSH)に着目して、in vitroおよびin vivoでの解析を行ったところ、CysSSHではなくGSSHによって安定的な修飾を受けることが示唆された。また、SqrRの修飾に関わるRSSの代謝について、また、SqrRによる制御機構に寄与するRSS代謝系を明らかにするために、関与し得るRSS代謝酵素を同定した。本酵素はロダネース様タンパク質であり、少なくとも硫化水素イオンのイオウ原子の転移を触媒する活性を持つことがわかった。さらに、硫化水素の消費を促すことで、SqrRの修飾をフィードバック制御している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、これまでに申請者が明らかにしたSqrRのRSS応答機構を踏まえて、1)細胞内のSqrRに対するRSSによる安定な修飾の種類の解明、2)SqrRの修飾に関わるRSSの代謝経路の決定の2つのアプローチによって進め、それらの成果を有機的に結びつけることで、RSSによるシグナル伝達の分子機構の詳細解明を試みている。今年度の各研究の研究状況を以下に記す。 1)細胞内のSqrRに対するRSSによる安定な修飾の種類の解明:細胞内のメジャーなRSSであるGSSHとCysSSHに対するSqrRの感受性について調べるため、大腸菌から精製したリコンビナントSqrRタンパク質をGSSHあるいはCysSSHで処理したところ、GSSHによって強く安定した修飾を受けることがわかった。また、SqrRによって制御を受ける遺伝子のプロモーター活性を指標に、in vivoでの各RSSの影響を観察したところ、細胞を硫化水素だけで処理、あるいは硫化水素とシステインで同時処理したときに比べ、硫化水素と還元型グルタチオン(GSH)で同時処理したときの方が、SqrRの活性が抑制された。この結果は、in vivoでもGSSHによる修飾がメジャーであることを示唆する。 2)SqrRの修飾に関わるRSSの代謝経路の決定:SqrRによる制御機構に寄与するRSS代謝系を明らかにするために、関与し得るRSS代謝酵素を同定した。本酵素はロダネース様タンパク質であり、生化学的な解析から、少なくとも硫化水素イオンのイオウ原子の転移を触媒する活性を持つことがわかった。また、本酵素遺伝子の欠損株の解析から、硫化水素の消費を促すことで、SqrRの修飾をフィードバック制御している可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、以下の研究を構成することで、異なるアプローチによる研究成果を効率良く、有機的に結びつけることで研究の推進を図る。 1)細胞内のSqrRに対するRSSによる安定な修飾の種類の解明:SqrRに対するGSSHおよびCysSSHの反応性について、定性的なデータしか得られていない。そこで、より定量的なデータを得るために、各種濃度のRSSで処理したときの修飾具合から、SqrRに対するGSSHおよびCysSSHのKd値を求める。また、in vitroではSqrRはRSSによってテトラスルフィド結合を形成することがわかっているが、細胞内での修飾は解析できていない。そこで、光合成細菌からFLAGタグを融合したSqrRをアフィニティー精製し、質量分析によって修飾の種類を同定する。 2)SqrRの修飾に関わるRSSの代謝経路の決定:同定したロダネース様タンパク質の酵素活性について、硫化水素由来のイオウ分子を渡す先のイオウ受容体はわかっていない。そこで、イオウ受容体となる分子の同定を試みる。また、RSS代謝の初期課程に関わる他の酵素についても、生化学的に酵素活性を測定し、RSS代謝への寄与を検証することで、より包括的なRSS代謝の理解を目指す。そのために、野生株とこれらRSS代謝関連遺伝子の欠損株について、質量分析を用いた網羅的RSS解析法によって細胞内RSSの定量を行うことで、細胞内のRSS代謝系の検証を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会の宿泊費が予定より安く収ったため、次年度使用額が生じた。次年度では、質量分析による解析で費用がかかるため、未使用額はその経費に充てることにする。
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