研究課題/領域番号 |
18K14655
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
藤平 陽彦 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (50721057)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Ngly1 / Nfe2l1 / マウス造血発生 / 糖鎖脱離酵素 |
研究実績の概要 |
本研究は、ペプチド:N-グリカナーゼ(Ngly1)による糖鎖脱離・分解の造血発生制御における役割の解明を目的としている。そのために、1. Ngly1-KO胎仔の肝臓における血球細胞の異常の解析、2. 転写因子nuclear factor erythroid 2-like 1(Nfe2l1, Nrf1)の細胞内局在、糖鎖付加・プロセシング状態の解析、3. Ngly1-KO細胞におけるNrf1の転写活性の解析の3点に取り組む計画を進めてきている。本年は、1と2の内容を中心に研究を遂行した。発生段階のE13.5におけるマウス胎仔について、肝臓の赤芽球系前駆細胞の分化状態、血球細胞の数、有核赤血球の比率の違いなどを検証した。赤芽球系前駆細胞の分化状態に関しては、意外にも、Ngly1欠損による分化度の違いは見られなかった。一方、血球細胞数に関しては、血球細胞の数は予備的知見の結果が再現され、Ngly1欠損により胎仔肝臓に血球細胞が増加した。また、有核赤血球の比率を比較すると、Ngly1欠損によりその比率が減少する傾向が見られた。したがって、Ngly1欠損により生じる造血発生制御における異常は、特に赤血球の成熟化に対して生じていることが示唆された。Nfe2l1欠損マウスにおいても同様の表現型が報告されていることから、Ngly1が造血発生に寄与するメカニズムには、Nfe2l1が関与している可能性が高いと言える。組織におけるNfe2l1の局在も検証したが、入手可能な市販抗体では免疫染色が困難であるため、局在の違いは検証しきれていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は、研究内容の1. Ngly1-KO胎仔の肝臓における血球細胞の異常の解析、および、2. 転写因子nuclear factor erythroid 2-like 1(Nfe2l1, Nrf1)の細胞内局在、糖鎖付加・プロセシング状態の解析として、予備的知見の部分で得られていた知見の再現性の確認、および、Ngly1欠損が赤芽球前駆細胞の分化や赤血球の成熟化に及ぼす影響について検証を行った。赤芽球系前駆細胞の分化状態に関しては、TER119とCD71をマーカーにフローサイトメトリーにより解析を行い、血球細胞数や赤血球の成熟化に関しては、組織切片の観察によって解析を行った。その結果、Ngly1の欠損は赤芽球前駆細胞の分化には影響を与えず、一方で、赤血球の成熟化(脱核を指標)に影響を与えていることがわかった。興味深いことに、転写因子Nfe2l1の欠損マウスにおいても、同様の表現型が報告されており、造血発生制御に対してNgly1欠損がもたらす影響は、Nfe2l1を介したものであることが強く示唆された。Nfe2l1の細胞内局在の差異を調べるために、凍結切片を用いた免疫染色にも取り組んだが、市販の入手可能な抗体では検証に足るだけの十分な染色が行えなかったため、今後、生化学的な手法で、Nfe2l1のプロセシングなど、別の方向性でNfe2l1の異常の解析に取り組む予定である。本年度は、大学の研究棟移転に伴う動物施設の移動により約半年動物実験を行うことができなかったため、予定より進捗は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに組織学的解析によって明らかにした赤血球の成熟化に対するNgly1欠損による影響に関しては、定量的な解析を行うため、解析ソフトを用いた画像解析などに取り組む。また、動物施設移転に伴い遅れてしまった動物実験を準備と解析を迅速に進め、マウス発生段階のE13.5以外の時期、具体的には、E11.3、E12.5、E14.5に関しても、本年度と同様の解析を進め、発生の段階ごとに現れる異常をまとめる。さらに、Nfe2l1の異常に関しては、組織学的な解析が難しそうなので、生化学的に、そのプロセシングや糖鎖付加状態を解析する。研究内容の3. Ngly1-KO細胞におけるNrf1の転写活性の解析に関しても動物実験と並行して研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の研究棟移転に伴い、予定よりも動物実験を含む研究の遂行がやや遅れたため、その分、使用した経費も減少した。前年度の残額も合わせて、予定通り研究が遂行できるように本年度は研究を遂行していく。
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