本研究は、生細胞1分子イメージングを用いて、相分離の性質を示す核内タンパク質における、粘弾性挙動を直接定量解析することを目的としている。特に、1分子局在顕微鏡法の超解像技術と、高輝度蛍光色素を用いることで、1分子追跡を数ミリ秒から百秒程度の時間スケールに拡張し、幅広い時空間スケールにおける粘弾性挙動を解析する。本年度はまず、昨年度においてマイクロレオロジー測定との一致が見られた核小体タンパク質の1分子イメージング定量解析を進めた。特にこれまで測定したNPM1とは異なる核小体領域に存在するFBLタンパク質の1分子追跡を行いその動態を解析したところ、NPM1よりも弾性特性が顕著な挙動が得られた。これらの特性の生物学的要因を調べるためにリボソーム生合成関連タンパク質のノックダウン実験を行ったところ、NPM1の拡散係数が増大した一方で、FBLには変化がみられなかった。またこれらの動態は相分離阻害剤ではなくRNA合成阻害の影響を受けた。これらの結果より核小体の内部構造ごとに粘弾性特性は異なり、その維持には持続的な生合成が必要であることが示唆された。また、昨年度にクロマチンとの結合がみられたヘテロクロマチンタンパク質HP1αの動態において、相分離様動態が報告されているchromocenterとの同時観察を行ったところ、chromocenterの内外において同様にクロマチンとの結合動態が見られたことから、HP1αは相分離には依存しない動態が支配的であることが示唆された。さらに、転写関連因子の相分離に関わる天然変性領域にタグタンパク質を融合し、1分子観察可能な細胞株を複数構築したが、これらは相分離特有の液滴構造を形成せず、1分子動態解析は困難であった。現在これら天然変性領域を用いて薬剤添加で液滴形成を誘導し、その内部における動態を1分子追跡可能な系の構築を進めている。
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