ヒトの視覚は明暗視を担うロドプシンと色覚を担う視物質から構成される。中間体の結晶構造まで決定されているロドプシンと比較して、霊長類色覚視物質の構造解析はこれまで皆無だったが、2010-2017年の8年間に私は世界で初めて培養細胞を用いて調製したサル色覚視物質の赤外分光解析に成功した。 本研究では、ヒトの色覚を担う光受容タンパク質、色覚視物質の原子座標を決めることで、色を識別する分子機構の解明に向けた構造基盤の確立に取り組んだ。具体的には、①光異性化しないアナログレチナールを結合した青視物質に対し、短期間での結晶取得を実現する条件の探索、②低温紫外可視分光および低温赤外分光測定により、青視物質の光反応過程において生成する中間体の同定、さらにBL中間体の構造解析に成功、③緑視物質における熱安定化変異体の発見、およびLCPによるその変異体の結晶構造解析を行った。これらの研究成果は、3報の国際論文、7件の招待講演を含む国内外学会で発表、3件の賞を受賞した。
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