研究実績の概要 |
本研究では、膜透過性ペプチドR8の直接膜透過現象のメカニズムを明らかにする為に「R8が直接膜透過する際に脂質ドメインを足場として利用し、ドメイン領域-非ドメイン領域間の境界面から細胞内に流入する」仮説を立てた。細胞膜上で安定したラフトを構築する為に、錯体脂質を用いて人工脂質ドメイン構築技術を生細胞膜上に展開し(1年目)、ラフト領域の脂質パッキング評価とR8流入過程の観察を行う(2年目)研究計画を立てた。 本年度(最終年度)では、生細胞膜上で人工脂質ラフトを構築した上でR8流入の評価を試みた。R8の膜透過実験には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)で蛍光標識したR8ペプチド(FITC-R8)を用いた。まず、コントロールとして無処理のチャイニーズハムスター卵巣細胞に20uMのFITC-R8を添加して、細胞内の蛍光強度をフローサイトメトリーで測定し、その強度を100%とした。次に錯体脂質5uMを細胞に添加し人工脂質ドメインを形成した条件では、細胞内のFITC-R8の蛍光強度が無処理細胞と比べて取込み量が60-70%も低下したことが分かった。同じ条件で、共焦点顕微鏡を用いてFITC-R8の直接膜透過を観察したところ、直接膜透過を示す細胞の割合が人工脂質ドメイン形成下で顕著に低下していることが明らかになった(直接膜透過を示す細胞割合:無処理細胞群では85%, 人工脂質ドメイン形成条件下の細胞群では18%だった)。当初は、人工脂質ドメインを形成することによりドメイン-非ドメインの領域の境界面からR8が細胞内に流入しやすくなることで、R8の膜透過量が増大すると想定していた為、予想と異なる結果が得られた。上記の結果から、R8の直接膜透過を支配する別の要因が存在することが示唆された。今回得られた重要な知見を基に、今後は異なる角度でR8の膜透過メカニズムの解明に迫る。
|