本研究ではKim-Hirata理論の実装及び実際の系への応用を行っている。本理論は自由エネルギー平面の曲率を計算することで分子の揺らぎを解析することを試みる。本理論は分子動力学シミュレーションを用いた通常の揺らぎの解析法とは異なり、コンフォメーションの分布を正確に求める必要がないという特徴が独特である。 2018年度、2019年度は自由エネルギー平面の2階微分を計算する2つの異なる手法を開発した。2020年度は、それらの内容を解析し、それぞれの手法は異なる反応座標に対する曲率を計算していることに対応していることが判明した。また、それらの手法や解析結果を示した論文の執筆を行った。現在は論文執筆の最終調整に入っており、近日中にJournal of Chemical Information and Modeling等の国際誌へ投稿する予定である。また、第58回日本生物物理学会年会にて「3D-RISM理論を応用した溶液中におけるペプチドの構造揺らぎの解析」というタイトルで発表を行った。 今後はタンパク質のようなより大きな分子への応用や、線形応答理論との組み合わせによるある熱力学状態から他の熱力学状態への緩和の過程の解析への応用を行うために手法の改良を行う必要がある。しかし、2019年度の末から所属を異動し、他のプロジェクトの予算で雇用されているため本プロジェクトへ割くことのできる時間が限定されている。新たな理論や方法論を開発するためには腰を据えて研究に集中することができる安定なポジションに就くことが必要である。
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