研究課題
藍色細菌の生物時計分子装置は、時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCの3つから構成されており、試験管内でATPを駆動力として約24時間の周期で自律的に振動することが分かっている。これまでに、Kaiタンパク質それぞれの結晶構造が明らかにされ、KaiBC複合体、KaiABC複合体の構造も明らかになりつつあるが、それらは24時間のうちの一瞬しか反映しておらず、時計の本質が明らかになったとは言えない。そこで、本研究では、核磁気共鳴(NMR)法と電子スピン共鳴(ESR)法を用いて、これら3つのタンパク質が、いつ、どこで相互作用しあうかを明らかにすることで、生物時計の作動原理を理解することを目的とした。これまでに、申請者はKaiBにスピンラベルを導入し、KaiAとの相互作用部位を同定してきた(Mutoh et al., 2010)。これらの結果に基づき、新たにスピンラベル導入位置を10か所作製し、網羅的に相互作用部位の探索を行った。スピンラベルMTSSLをKaiBに導入したMTSSL-KaiBと、KaiAおよびKaiCをATP存在下で混合し、4時間ごとに試料を回収した。それをESR測定した結果、KaiA-KaiBの相互作用を周期的に捉えることに成功した。ESR法は、スピンラベルを導入した近傍の相互作用しか捉えることはできない。そこで、全体の相互作用を解析するためにNMR法を用いた。しかし、NMR測定には分子量に制限があり、タンパク質全体を標識するとNMRピークがブロードになり相互作用を検出することはできない。そこで、タンパク質をドメインに分け、測定する分子量を小さくした。当該年度では、KaiCを標識し、KaiBおよび時計関連タンパク質SasAとの相互作用解析を行い、それぞれの相互作用部位を同定した。
2: おおむね順調に進展している
ESR測定では、KaiA-KaiB相互作用部位の網羅的解析を行い、順調に相互作用部位の同定が進んでいる。KaiAのN末端側にHisタグを挿入し、このHisタグを用いた新しいESR測定法の検証をしている。スピンラベルを導入することで、タンパク質の活性が低下する恐れがあるため、スピンラベル導入後、KaiA-KaiB-KaiCをATP存在下で混合し、KaiCのリン酸化レベルが周期的に振動することで活性の確認を行っている。NMR測定では分子量に制限があるため、タンパク質をドメインごとに発現させ、それをLigation酵素を用いて結合することを目指している。当該年度はこの実験に必要なコンストラクトの作製、タンパク質の精製を行った。現在、Ligation反応条件の検討中であり、Ligation産物が得られれば活性確認を行っている。NMR測定に必要なドメインタンパク質は、13C, 15N標識し、精製した。それらを個別にNMRの帰属測定を行い、現在NMRピークの帰属を進めている。
ESR測定のための変異体はすでに作製済みであるので、順次試料を精製し測定を行っていく。NMR測定には高濃度のタンパク質が必要となるので、引き続き精製を行い、測定試料を確保する。ESR、NMR測定ともに測定したデータの解析を行う。得られたデータから、生物時計の作動原理についてモデルを提唱する。
比較的高額なNMR試薬を譲り受けたため、次年度の試薬購入のために繰り越した。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
The Plant Journal
巻: 99(2) ページ: 245-256
10.1111/tpj.14319
生物物理
巻: 59 ページ: 32-33