研究課題/領域番号 |
18K14669
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
白神 慧一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (80795021)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 全反射減衰テラヘルツ時間領域分光 / 水素結合 / 水和水 / 細胞 |
研究実績の概要 |
培養細胞に外的刺激を与えた際に生じる細胞内水の変化を定量的に解析することを目指し,本年度は細胞測定に特化した全反射減衰テラヘルツ時間領域(THz TD-ATR)分光測定系の構築に着手した.また,次年度に行う培養細胞の複素誘電率解析を見据えて,テラヘルツ帯における誘電率フィッティング解析法の最適化も行い,その成果を投稿論文として発表した.今年度の補助金は,主にTHz TD-ATR測定系においてテラヘルツパルスを発生・検出に用いるフェムト秒レーザーの購入費に充てられた. (1)THz TD-ATR測定系の構築に関しては,フェムト秒レーザー励起をもとにダイポール型の光伝導アンテナでテラヘルツパルスの発生・検出を行い,高抵抗シリコンをATRプリズムに用いた光学配置で~3 THzまで測定可能であることを確認した.また,長時間にわたる測定系の安定化を目指すため,フェムト秒レーザー周辺の環境整備を行い発振強度の揺らぎ評価を行った. (2)誘電率フィッティング解析法の最適化に関する論文はPhysical Chemistry Chemical Physics (Vol. 20)に掲載された.この論文は、これまで水分子の配向緩和に用いられていたDebye緩和モデルはテラヘルツ帯において理論的に破綻していることを明らかにし,この問題点を解決するために慣性の影響と分子間相互作用を考慮したStochastic frequency modulation(SFM)緩和モデルを提案したものである.このSFMモデルは20 THz付近に位置する水のライブレーションバンドの不均一広がりをも再現できるため,テラヘルツ帯全域において有効な誘電率フィッティング解析方法になり得ることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画時点では,本年度中に細胞内水和割合3 %の変化に相当する振幅変動±1.5 %以下かつ位相変動0.01 rad以下を24時間にわたって満たす測定系の構築を予定していた.しかし,フェムト秒レーザー周辺の環境整備ならびに光学素子・制御機器類の収集に時間を要したため,THz TD-ATR測定系の構築に関しては予定よりも遅れが発生している.しかしその一方で,次年度に行うデータ解析の最適化に先立って着手し,投稿論文として成果を発表するに至っている.
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今後の研究の推進方策 |
まずは目的とする高精度・高安定なTHz TD-ATR測定系を完成させることを目指す.そのために,フェムト秒レーザー励起で発生したテラヘルツパルスを試料測定用と参照用に分岐させたダブルパス光路を採用し,その性能確認ならびに改良を行う.その後,ATRプリズム上でHeLa細胞を培養し,過酸化水素の添加で引き起こされる酸化ストレスに伴うテラヘルツ帯の複素誘電率変化を解析することで,細胞内生理に関わる水のダイナミクス変化について考察を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画時には光学部品とそのマウント用部品を購入することを想定していた。しかし、物品費の不足が原因で光学部品そのものの購入が翌年度に持ち越され、それに伴ってマウント部品代が浮いてしまったため。
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