研究課題/領域番号 |
18K14673
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂田 豊典 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (40795530)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | コヒーシン / 染色体高次構造 / Hi-C / エンハンサー |
研究実績の概要 |
染色体高次構造は種々の染色体機能において重要な役割を果たすことが知られており、このような構造の形成に関わる因子としてコヒーシン複合体が着目されているが、高次構造形成におけるコヒーシンの制御や、コヒーシンによる転写制御についての詳細は不明な点が多い。 そこで、本研究ではコヒーシン欠損時の遺伝子の転写活性の変化について解析するため、Precision nuclear run-on sequencing (PRO-seq)の手法確立を試みた。転写阻害剤処理有りと無しの細胞で実験を行ったところ、両者の間で明らかな差が確認できたことから、実験系を確立することができた。今後はさらに実験条件を最適化した後、 コヒーシン欠損の条件下などでPRO-seqを行う。 また、コヒーシンとともに染色体高次構造を制御する因子を探索するため、転写開始前複合体のサブユニット、TBP、TAF1、TAF6、さらにメディエーター複合体のサブユニット、MED1、MED12、MED23、MED26を欠損した細胞でHi-C解析を行った。メディエーター複合体サブユニットの欠損では、コヒーシンと同等にエンハンサー/プロモーター相互作用の減少がみられた一方で、転写開始前複合体サブユニットの欠損ではエンハンサー/プロモーター相互作用は増加していた。今後は、これらの因子を欠損したときのコヒーシンのクロマチン局在の変化や物理的な相互作用、相互作用部位について解析を行う。さらに、細胞内のコヒーシン複合体の構成因子及び、in vitroでのコヒーシンの ATPase活性などについて、これらの因子の有無で変化がみられるかについて解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体高次構造は種々の染色体機能において重要な役割を果たすことが知られており、このような構造の形成に関わる因子としてコヒーシン複合体が着目されている。実際に、コヒーシンがトポロジカルドメインやエンハンサー/プロモーター相互作用といった構造の形成に必須であることがこれまでに示されている。一方で、高次構造形成におけるコヒーシンの制御や、コヒーシンによる転写制御についての詳細は未だ不明のままである。そこで、まずコヒーシン欠損時の遺伝子の転写活性の変化について解析するため、Precision nuclear run-on sequencing(PRO-seq)の手法確立を試みた。これまで報告されている方法を基に、転写阻害剤処理有りと無しの細胞で実験を行ったところ、両者の間で明らかな差が確認できた。そこで今後はさらに実験条件を最適化した後、 コヒーシン欠損の条件下などでPRO-seqを行う。また、コヒーシンとともに染色体高次構造を制御する因子を探索するため、既知の転写制御因子の欠損下でHi-C解析を行った。具体的には、転写開始前複合体のサブユニット、TBP、TAF1、TAF6、さらにメディエーター複合体のサブユニット、MED1、MED12、MED23、MED26について、RNA干渉を用いてノックダウンした細胞を使って実験を行った。その結果、メディエーター複合体サブユニットの欠損では、コヒーシンと同等にエンハンサー/プロモーター相互作用の減少がみられた。反対に、転写開始前複合体サブユニットの欠損ではエンハンサー/プロモーター相互作用は増加していた。今後は、これらの因子とコヒーシンとの関わりを詳細に調べていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の点について明らかにしていく。 1) コヒーシン欠損時の遺伝子の転写活性の変化を明らかにするため、PRO-seqを行う。そのために、まずPRO-seqの条件を最適化する。PRO-seqは修飾塩基を取り込ませることにより新生RNAを標識し、これを精製することで合成された直後のRNAを解析する手法であるが、これまで修飾塩基は1種類で行っていた。そこで、この修飾塩基を2種類や4種類に増やすことにより、より高解像度のデータが得られる可能性がある。よってこの点についてさらに検討を行い、得られた最適な実験条件でコヒーシン欠損時の遺伝子の転写活性を調べる。 2) 転写開始前複合体のサブユニットとメディエーター複合体のサブユニットの欠損で染色体高次構造に変化がみられたことから、これらの因子とコヒーシンとの関わりを明らかにする。 まず、これらの因子を欠損したときのコヒーシンのクロマチン局在の変化をChIP-seqやChIP-定量PCRで調べる。また、これらの因子のコヒーシンとの物理的な相互作用や相互作用部位について、精製タンパク質等を用いて解析を行う。さらに、細胞内のコヒーシン複合体の構成因子及び、in vitroでのコヒーシンの ATPase活性などについて、これらの因子の有無で変化がみられるかについて解析を行う。また、これらの因子はいずれも転写制御に関わっていることから、欠損までに比較的時間のかかるRNA干渉を用いた実験では、副次的な影響をみている可能性がある。そこで、これらの因子についてAuxin-Inducible Degron (AID) タグを付加したヒト培養細胞株を樹立する。AIDによって速やかに目的の因子を分解することで、副次的な影響を抑え、よりダイレクトな欠損の効果を観測する。
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