本研究では、性決定遺伝子Sryを制御する新規エピゲノム修飾酵素と、Sry遺伝子にリクルートする転写関連因子の同定を目指した。 計画1: 昨年度までの研究から、抑制性ヒストン修飾マークH3K9の脱メチル化酵素JmjdのうちJmjd1a /Jmjd1b がSry発現に生理機能的に相補すること、これらが実際にSryの遺伝子座のH3K9メチル化レベルを負に制御することを明らかにした。今年度はまだ不明であったJmjd1bの胎仔性決定期における発現パターンを組織免疫染色法により確認した。結果、Jmjd1bの発現は、すでに明らかにしていたJmjd1aの生殖腺特異的な一過性の発現パターンとは異なり、生殖腺・中腎・生殖細胞などにユビキタスな発現パターンを示した。期間内の研究結果から、Sry遺伝子座のH3K9脱メチル化はJmjd1a/Jmj1bにより制御されていること、Jmjd1aが主に機能しJmjd1bはJmjd1aに対して相補またはバックアップ的な機能を果たすことが明らかとなった。 計画2: Sry 遺伝子座の発現とそれに引き続く雄への性決定を制御する新規因子を探索する目的で、申請者がこれまでに構築したセルトリ前駆細胞の遺伝子発現データから、E11.5日に一過性に発現する転写因子XとYを選別した。昨年度までに遺伝子Xのコンベンショナル欠損マウスおよび遺伝子Yの生殖腺特異的な欠損マウスをゲノム編集により作出していた。今年度は、それぞれの欠損マウスにおいて雄から雌への性転換が発生するか否か、成体マウスの内外生殖器の組織学的解析を行った。結果、どちらの欠損マウスにおいても性転換の表現型は観察されなかった。
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