真核細胞の核内において、ゲノムDNAはクロマチンを形成している。クロマチンの基本単位は、円盤状のヒストン複合体にDNAが巻き付いたヌクレオソームと呼ばれる構造体である。多くの場合、ヌクレオソームは転写因子のDNA結合を妨げるが、パイオニア転写因子と呼ばれる特殊な転写因子群は、ヌクレオソーム中の標的配列に結合することが知られている。代表的なパイオニア転写因子のひとつであるOct4は、細胞の未分化性の維持に重要であり、体細胞の初期化(iPS細胞の作製)においても中心的な役割を担うことが知られている。本研究では、Oct4が標的ヌクレオソームに結合する機構を解明するため、Oct4と標的ヌクレオソームを用いた生化学的解析を行った。 本研究では、Oct4が標的とする細胞初期化遺伝子のエンハンサー配列のDNA断片を用いて、標的ヌクレオソームを試験管内再構成した。このDNA断片の中には、3個のOct4標的配列が存在するが、本研究で行った変異体解析の結果から、Oct4はヌクレオソーム中の特定の1個の標的配列に優先的に結合することが明らかになった。さらにヌクレオソームポジショニング解析の結果から、Oct4はヌクレオソームのentry/exit部位に存在する標的配列に結合することが明らかになった。また、Oct4-ヌクレオソーム複合体のクロスリンク質量分析の結果から、Oct4はヌクレオソーム中のヒストンH3のN末端と相互作用することが示唆された。この結果は、Oct4がヌクレオソームのentry/exit部位に結合するという結果を支持するものであった。さらに本研究では、Oct4とリンカーヒストンH1がヌクレオソーム結合において競合することを見出し、H1がOct4をヌクレオソームから解離させることを明らかにした。本研究成果は、パイオニア転写因子Oct4の作用機序を解明するうえで重要な知見となる。
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