植物のゲノムの特徴の一つに,タンデム重複遺伝子が多いことが挙げられる.本研究では,そのタンデム重複遺伝子の機能を解析するための技術基盤を,特にゲノム編集技術に着目して構築することを目指した.まず,CRISPR/Cas9を利用してタンデム重複遺伝子を欠失させるために,各遺伝子について自動で欠失用のgRNAを設計するプログラムを作製した(石野ら・第59回植物生理学会年会).本プログラムは,シロイヌナズナだけでなくゼニゴケやトマトなど様々な生物に活用できるように作成した(日本植物学会第82回大会・田井ら).このプログラムを用いてgRNAを複数本自動設計したのち,その複数のgRNAをPolycistronic tRNA gRNA system (以下PTGS)で連結させるプロトコルを確立した.本プロトコルを活用して,システインリッチペプチドをコードする遺伝子を中心として,欠失用ベクターを構築,形質転換シロイヌナズナを作出した.野生株ではなく,非相同末端結合修復経路が阻害されているlig4変異体を親株にした形質転換体では高効率に欠失株を作出できることを見出した.名古屋大学・田畑亮博士との共同研究により,システインリッチペプチドをコードする遺伝子群のうち,ある特定のクラスターが鉄イオン欠乏に対する応答性に関与することが分かった.加えて,本技術を様々な種に適用できるように,ヒユ科(ホウレンソウ・キノア・サトウダイコン)におけるインフィルトレーション法も構築した.ホウレンソウにおいては,今まで報告されていなかった一過的ゲノム編集に成功した(田井ら・第61回植物生理学会年会).以上のことから,陸上植物全般においてタンデム重複遺伝子の欠失株を作出する技術基盤が構築できたと考えている.
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