研究課題/領域番号 |
18K14680
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大字 亜沙美 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (50803417)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クロマチン / 染色体 / 3Dゲノム / エピジェネティクス / ES細胞 / スクリーニング / 網羅的解析 |
研究実績の概要 |
近年、核内の三次元的なゲノム高次構造(3Dゲノム)解析を可能とするHi-C法が開発され、約100万塩基対の染色体ドメインTADの存在や、そのTADが転写活性の高いAコンパートメントと、低いBコンパートメントに空間的に分かれて核内に収納されていることが分かってきた。A/Bコンパートメント分布の制御は、遺伝子発現等のゲノム機能を調節する基盤になっていると考えられるが、コンパートメント形成の分子メカニズムは全く分かっていない。 我々は、3Dゲノム構造を反映するDNA複製時期制御に着目して研究を進めてきた結果、DNA複製時期とコンパートメント分布がゲノムワイドに、しかも動的に相関していることを見出した。複製時期の早いゲノム領域はAコンパートメント、遅い領域はBコンパートメントとよく一致する。そこで、DNAの複製時期をGFPの蛍光強度によって検出できれば、1細胞レベルでA/Bコンパートメント分布を推定でき、3Dゲノム制御機構へのアプローチが可能になると考えた。具体的には、マウスES細胞を用いて、コンパートメント分布を調べたいゲノム領域にGFP遺伝子を導入し、その複製状態(=DNAコピー数)をGFP蛍光強度によって判定する計画である。 初年度は、複製時期が分かっている4つのゲノム領域にGFPを導入したES細胞株を樹立し、フローサイトメーターによる細胞周期解析を組み合わせて、複製前後のGFP蛍光強度を測定した。すると、S期の初期に複製する領域にGFPを組み込んだ細胞ではGFP強度が強かったが、後期に複製する領域ではGFP強度が弱かった。一連の結果から、GFP導入領域のコピー数測定によるDNA複製時期の検出を介して、核内コンパートメント分布を推定可能なレポーターシステムが期待通りに構築できた可能性が高いと考えている。次年度は、いよいよ本システムを用いて、3Dゲノム制御の分子機構に迫りたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、ゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9システムを利用し、マウスES細胞の複製時期が既知である4つのゲノム領域にGFP遺伝子を導入することが出来た。次に、樹立した各細胞クローンを用いて、細胞間のばらつきを抑える培養条件(ディッシュのコート剤や使用培地)の最適化を行った。 また、当初は細胞周期解析を生細胞で行うため膜透過性ヘキスト(Hoechst33342)による核染色を計画していたが、実際にフローサイトメーターを用いて実験を行うと、ヘキストとGFPの蛍光波長が重なっていた。そこでGFPと蛍光波長が重ならない核染色色素をいくつか比較検討し、最もシャープな細胞周期ピークが検出できたDRAQ5を採用し、染色条件を最適化した。 以上の条件検討により、フローサイトメーターで生細胞の細胞周期を解析しつつ、各フェーズ(G1期、S期初期、S期後期、G2期など)におけるGFP蛍光強度の測定が可能となった。樹立した各クローンについて、S期初期とS期後期のGFP蛍光強度を比較したところ、それぞれDNAコピー数を反映していると考えられるGFP蛍光強度を示した。本結果は、少なくとも独立した2クローン以上で再現できることを確認している。 このことから、条件検討に時間はかかったものの、予定通りDNA複製可視化システムを構築できた可能性が高く、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに構築した、DNA複製を可視化できるES細胞を用いて変異体スクリーニングを行い、標的とした4つのゲノム領域のDNA複製時期(=A/Bコンパートメント、とほぼ読み替え可能)に影響を与える因子を網羅的に探索したい。 当初の研究計画では、ES細胞の分化過程で見られる複製時期及びA/Bコンパートメントの「変化」を制御する因子を変異体スクリーニングにより同定することを目的としていた。しかし、ES細胞でシステム構築を終えた今、そのままES細胞を用いて変異体スクリーニングを行うことで、複製時期及びコンパートメントの「維持」に必要な因子の同定を行う方が順序としては理にかなっていると考えた。そこで、まずはES細胞でシンプルに変異体スクリーニングすることを第一目標とした。この第一のスクリーニングが成功すれば、その次は、いよいよ当初の目的である、ES細胞分化に伴う複製時期及びコンパートメントの「変化」の制御因子の探索に取り掛かる予定である。 また、分化細胞は細胞間のばらつきがES細胞よりも大きいため、フローサイトメーターを用いた細胞周期解析結果が未だ不明瞭であり、実験条件を再検討する余地がある。そのため、今後はES細胞を用いた変異体スクリーニングと並行して分化細胞の条件最適化を進めたいと考えている。
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