研究課題/領域番号 |
18K14683
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大出 晃士 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (40612122)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 質量分析 / リン酸化 / 天然変性領域 / ASキナーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、キナーゼ特異的に進行する多重リン酸化サイトの相互依存性を系統的に解析する実験系を構築することを目的としている。 【1. ASキナーゼの作製】本研究ではモデルキナーゼとしてCKIδ/εとCaMKIIα/βを用いている。本年度は予定通り、AS変異キナーゼを作製した。培養細胞内で基質リン酸化もしくは、自己リン酸化を指標として、既知のASキナーゼ特異的阻害剤の効果を調べた。その結果、ASキナーゼによるリン酸化は、特異的阻害剤で抑制されることを確認した。 【2. 細胞透過性ATPアナログ基質の作製】細胞透過性のATPアナログ基質デザインにあたって、まず、細胞透過性を議論せず、基質認識についてのみ評価するために、細胞抽出液を用いてASキナーゼに対して特異的ATPアナログが基質認識されるか否かを見積もった。そこで特に、CaMKIIについて細胞抽出液を用いたリン酸化活性測定系を立ち上げた。この結果、CaMKII活性を十分に惹起した条件では、(細胞透過性を上昇させる修飾を与える前の構造である)ATPアナログ基質に依存したASキナーゼによるリン酸化反応は十分に観察されなかった。ASキナーゼによる基質認識や、これを担保するための反応条件を、より詳細に設定する必要性が明らかとなった。 【3. リン酸化経路の描出とin vivo への実験系の応用】上述のように、ASキナーゼ特異的なATPアナログの使用条件は現在検討中であるが、ATPと各種疑似リン酸化変異体シリーズを用いて、特にCaMKIIα/βの多重自己リン酸化経路の描出に着手し、複数の新規自己リン酸化サイトを見出した。また、それらのいくつかについては時系列上、リン酸化が生じる順番があることを見出した。さらに、in vivo実験系への応用に向けて、一本鎖オリゴヌクレオチドを用いて1アミノ酸置換を導入するための条件検討を行ったほか、ウイルスベクターを用いた発現誘導系の検討を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ASキナーゼの作製については予定通りの進行である。また、in vivo への実験系の応用に向けた準備についても順調に進行している。多重リン酸化のリン酸化経路の描出については、特にCaMKIIα/βについては、予想以上の進行を見せている。これは、細胞抽出液系を用いたリン酸化反応測定系を用いて、均質な状況で酵素活性を惹起させることで、CaMKIIα/β活性およびそれに伴う自己リン酸化反応を高い効率で引き起こし、時系列変化を追跡することが可能となったためである。また、新規に見出した自己リン酸化サイトを含めて、リン酸化サイトの変異CaMKIIα/βの作製についても着手している。 一方、細胞透過性のある新規ASキナーゼ特異的な基質アナログの設計と合成については、予定よりも進行が遅れている。細胞抽出液系を用いて、ASキナーゼによる高い基質認識効率を示すATPアナログ骨格の選別に注力し、次年度には新規アナログATPの評価を行うべく研究を遂行する。
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今後の研究の推進方策 |
【1. ASキナーゼの作製】初年度に完了した。 【2. 細胞透過性ATPアナログ基質の作製】細胞抽出液系を用いてCaMKIIα/βおよびCKIδ/εのAS変異キナーゼに高効率に基質認識されるATPアナログ骨格を探索する。これは既知のATPアナログを中心として行う。次に、この骨格をベースとして、細胞透過性を付与する化学修飾を行う。 【3. リン酸化経路の描出とin vivo への実験系の応用】 In vivoへの応用については、ASキナーゼを発現させるために1アミノ酸変異の誘導やウイルスベクターを用いた変異キナーゼの発現を行う。また、リン酸化経路の描出については、当初は、ATPアナログを用いて明らかにしたリン酸化サイトの相互依存性を時系列サンプリングを用いて確認する計画であったが、現在、細胞抽出液系とATP基質を用いて、特にCaMKIIα/βについて多重リン酸化経路の推定と、リン酸化サイトごとの依存関係を明らかにしつつある。そこで、細胞抽出液系を用いた多重リン酸化進行の時系列測定を推し進め、CaMKIIα/βの新たな自己リン酸化制御機構を明らかにするとともに、技術的チャレンジとしては上記ATPアナログを用いてリン酸化サイトごとの依存関係を確認するという戦略を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
CaMKIIα/β活性を十分に惹起した条件では、当初細胞透過性修飾を与える骨格構造として予定していたASキナーゼ特異的なATPアナログ基質は、ASキナーゼに十分に基質認識されない可能性が明らかとなった。これをうけて、細胞透過性修飾を付与するアナログ基質合成を延期したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、ASキナーゼに効率よく認識されるATPアナログ骨格を明らかにするための追加実験と、延期した細胞透過性修飾を行うために用いる計画である。
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