研究課題
これまでに受容体やペプチド配列それぞれの分子進化解析は多くなされてきている。しかし神経ペプチド遺伝子は一般的にその受容体と相互作用することではじめて機能を発揮するため、ペプチド、受容体それぞれの解析ではペプチド・受容体遺伝子の重複や変異がどのように相互作用を変化させてきたのかという重要な情報を統合的に解析し、抽出するに至っていない。そこでまず、生物種間で共通した受容体とペプチドの相互作用ルールを学習可能な、受容体・ペプチド間相互作用予測器の構築を行った。構築した手法は脊椎動物だけでなく、無脊椎動物のペプチド・受容体間相互作用もAUCで0.85以上の精度で予測可能となっており、さらに本予測器を用いて脊椎動物の共通祖先から最後に分岐したと考えられる無脊椎動物であるホヤの新規相互作用を予測したところ、40%以上のヒット率で12の新規相互作用を同定することが出来た。上記の成果については、PNASに論文を公表した。次に、その予測器から相互作用因子の抽出を行うプログラムを作製した。相互作用因子の抽出には、「各ペプチド・受容体に点変異を導入した際の予測値の変化量に基づく手法」、「線形SVMからの予測への寄与度の抽出を予測器内部の数式から抽出する手法」、および「ナイーブベイズを用いた寄与度の抽出手法」の3種類を構築した。現在、これら構築した3種類の手法のうち、いずれの手法が相互作用因子の抽出に適しているのかを検証可能な、変異と活性変化の既知データを文献情報から抽出し、比較・検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた予測器の構築、検証、予測器からの抽出手法の構築は完了している。特に、予測器の構築については、脊椎動物だけでなく、無脊椎動物のペプチド・受容体間相互作用もAUCで0.85以上の精度で予測可能となっており、さらに本予測器を用いてホヤの新規相互作用を予測したところ、40%以上のヒット率で12の新規相互作用を同定することが出来ている。この値は受容体・リガンド相互作用の予測手法でこれまでに行われたものと比較するとはるかに高かったことから、本研究の予測手法の優位性が示された。また、予測器からの相互作用因子の抽出手法についても順調に進んでおり、今後抽出精度を検証する段階まで来ている。
今年度構築した抽出手法3種の抽出精度の比較検討を行い、ペプチド・受容体間相互作用を決定する因子の抽出に適した手法を確定し、これらから生物種間の違いを説明できるような受容体の変異と活性の変化を予測し、実際に活性変化の測定を行う予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 116 (16) ページ: 7847-7856
https://doi.org/10.1073/pnas.1816640116