タンパク質の翻訳後修飾は、リン酸化修飾を代表として、細胞の増殖の調節や酵素の活性、細胞内シグナル伝達などに関わっており、細胞内の恒常性(プロテオスタシス)を維持する上でも重要な役割を果たしている。このような翻訳後修飾は、遺伝子解析ではなく、タンパク質を直接解析する必要があるため、質量分析測定(プロテオミクス)技術が、翻訳後修飾を大規模に解析するに際して大きな役割を果たしている。 そこで本研究では、タンパク質翻訳後修飾の代表例であるリン酸化と、酸化修飾状態という異なる翻訳後修飾状態の間の細胞内クロストークをとらえるための定量解析系の構築をすすめ、さらに異なる翻訳後修飾間の直接的なクロストークを検出するための相互作用同定技術の開発を進めた。リン酸化修飾状態の定量解析にはチタンカラム等を用いたリン酸化ペプチド回収技術を利用し、酸化還元状態の定量化には、還元状態と可逆的酸化状態のシステイン残基を安定同位体型の質量の異なるラベル体でそれぞれ修飾することにより定量化を行った。またこれらと同時に、酸化還元状態によって制御されるタンパク質を中心とした相互作用検出法を検討し、レドックス反応性の高いシステイン残基を中心とする相互作用部位の同定につながる実験系の構築に成功した。これらの技術は、システイン残基を介したタンパク質間のクロストークを中心に、シグナル伝達経路を検証する上でも有用性の高いツールになると考えている。
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