研究課題/領域番号 |
18K14690
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市原 健介 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 特任助教 (60610095)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有性生殖 / 進化 / アロ認証 / 海藻 |
研究実績の概要 |
有性生殖は真核生物を特徴付ける重要な形質であり、動植物を問わずに進化してきた。動物では配偶子は大きく二形化し、精子と卵による卵生殖がおこなわれる。一方で、植物、特に藻類では同形から異形配偶子接合、卵生殖に至るまで進化の過程の様々なタイプの有性生殖が保存されている。アオサ藻綱に属するスジアオノリはわずかに大きさの異なる異形配偶子接合をおこなう。雌雄の配偶子を混合すると、配偶子は凝集し、鞭毛の先でお互いの性や種を「認識」し、同種の異性であることがわかると瞬時に細胞の「融合」が進む。またスジアオノリには光学顕微鏡下では配偶子と構造的な違いはほとんど見られないが、電子顕微鏡下では雌雄の配偶子に存在している接合装置が欠けた無性型二本鞭毛遊走子を放出する無性個体も存在する。雌雄配偶子および、この無性型二本鞭毛遊走子を微細構造とタンパク質レベルで比較することで、種と性の「認識」と細胞の「融合」という有性生殖の根幹を明らかにしたい。 当該年度は主に配偶子、二本鞭毛性遊走子から鞭毛を単離し、LC-MS/MS によるショットガン分析をおこなった。Fu et al. 2014.の手法を参考に、EGTAの濃度を調整することでスジアオノリの鞭毛を配偶子から単離する手法を開発した。雌雄配偶子および二本鞭毛性遊走子から単離した鞭毛をプロテオーム解析したところ、全体で251個のタンパク質を同定することができた。このうち80個は雌雄配偶子および二本鞭毛性遊走子で共通性がみられた。この中には鞭毛構成タンパク質が多く含まれていたが、解糖系に関わる酵素も同様に含まれており、アオサ藻綱の鞭毛運動は解糖系からのエネルギーが利用されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の実験計画では雌雄配偶子および二本鞭毛性遊走子の鞭毛および細胞膜上に存在するタンパク質の解析を中心にした。鞭毛タンパク質の解析について、当初先行研究の条件をそのまま当てはめ実験を行なっていたが、鞭毛が外れるまでに長時間のボルテックス処理が必要で、細胞へのダメージが大きく、回収した鞭毛のフラクションに多くのその他の細胞部位由来のタンパク質が混入していることが予測された。そこで、鞭毛単離試薬中のEGTAの濃度を調整することで、より短時間のボルテックス処理で鞭毛を単離することが可能となった。 今回のLC-MS/MS によるショットガン分析によるタンパク質解析では、全タンパク質の比較をおこない、多くの鞭毛局在タンパク質を同定することができた。一方で、種と性の「認識」に関与しているであろう膜貫通ドメインを持つタンパク質等は絶対量が少ないのか十分に同定することができなかった。SDS-PAGEによるタンパク質の比較では、雌雄配偶子および二本鞭毛性遊走子それぞれに特異的なバンドが見られることから、2019年度にはこれらのバンドを個々に分析することで、それぞれの鞭毛に特異的なタンパク質をさらに同定したい。細胞膜局在性のタンパク質の解析が現在遅れているが、手法、試薬の検討はすでに行ない、水性二相分離法を利用し、細胞膜分画を回収し解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、雌雄配偶子および二本鞭毛性遊走子由来の鞭毛タンパク質をSDS-PAGEで分離し、それぞれの鞭毛に特異的なバンドを切り出し、LC-MS/MSによる分析を試みる。これにより、絶対量が少なくとも種と性の「認識」に関与しているであろう膜貫通ドメインを持つタンパク質の単離、同定が行えるはずである。同様に細胞膜タンパク質に関しても、全タンパク質解析および特異的バンドのみを切りだし、LC-MS/MSによる分析をおこなう。上述の手法で雌雄配偶子に特異的なタンパク質、特に膜タンパク質に着目し、種と性の「認識」と細胞の「融合」に関与するタンパク質の候補の絞り込みをおこなう。また、これまでの研究で取得した雌雄配偶子形成過程のトランスクリプトームデータも利用し、配偶子形成過程に発現量が増加しているタンパク質にも着目する。絞り込んだ候補遺伝子については組換えタンパク質を作成し、抗体を作る。まずは、雌雄配偶子および二本鞭毛性遊走子のタンパク質を用いたウエスタンブロットにより、雌雄どちらかの配偶子に特異的であるかを確認し、その後免疫蛍光抗体法を用いて、配偶子のどの部位に局在しているのかを明らかにする。 また雌雄配偶子の接合直後、接合子形成の初期段階で固定をおこない、微細構造の変化を透過型電子顕微鏡により、雌雄配偶子の接合の際の細胞融合過程を経時的かつ立体的に観察する。また候補タンパク質が鞭毛や接合装置のどこに発現しているのかを免疫電顕から明らかにする。接合装置局在のタンパク質であれば、接合時の経時観察をおこない、細胞融合のどの段階まで発現しているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は細胞膜局在性のタンパク質の解析がおこなえなかったこと、また実験が進捗が遅れたことで学会発表が難しくなったことにより使用計画との間にずれが生じた。 次年度に細胞膜局在性のタンパク質をおこなうこと、また雌雄配偶子に特異的なバンドのLC-MS/MS解析をおこなう予定である。またLC-MS/MS解析で得られた、雌雄配偶子にそれぞれ特異的なタンパク質に対して抗体を作成する予定である。
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