研究課題/領域番号 |
18K14698
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
内田 安則 神戸大学, 医学研究科, 助教 (80793603)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪酸 / 小胞体 / 脂質代謝 / カルシウム |
研究実績の概要 |
小胞体は扁平なシートや曲率の高いチューブルなど、形態的に極めて異なる膜ドメインを持ち、この形態が機能発揮に重要である。小胞体形態形成の機構は、特定の膜構造を安定化する膜タンパク質(膜変形タンパク質)を中心に解析が進んでおり、脂質に着目した解析は進んでいない。小胞体は脂肪酸の伸長・不飽和化などの代謝反応が起きるオルガネラである。脂肪酸代謝は膜脂質の物性を変化させ、膜タンパク質の機能に影響を与える。このことから、脂肪酸代謝は膜変形タンパク質などの活性を変化させることで、小胞体形態に影響を与えると予想される。そこで本研究では、脂肪酸代謝酵素に着目し、小胞体形態形成との関連を明らかにする。 我々は脂肪酸伸長酵素であるtrans-2-enoyl CoA reductase (TER)に直接結合するタンパク質として、p105を既に同定している。先行研究から、p105が小胞体カルシウムを増加させること、小胞体カルシウムが小胞体形態に関与することが報告されている。これらの知見から、TERがp105を介して小胞体カルシウムを制御し、小胞体形態を調節する可能性が考えられる。 そこで本年度は、TERによるp105の調節機構について解析した。まずミクロソーム画分において、内在性のp105の分子活性を測定する実験を行った。その結果、TERの過剰発現によりp105の活性が減少することを見出した。次に小胞体カルシウムを測定する実験を行った。その結果、TERの発現抑制で小胞体カルシウムが増加することを見出した。以上の結果から、TERがp105の活性を抑制することで、小胞体カルシウムを減少させることが明らかになった。今後、TERの小胞体形態への関与を詳細に検討することで、「脂肪酸伸長酵素によるカルシウムを介した小胞体形態制御」という新たな概念が提唱できるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、脂肪酸伸長酵素TERが小胞体カルシウムの制御因子p105と直接結合することと、p105の活性を抑制することで小胞体カルシウムを減少させることを明らかにしている。カルシウムは小胞体の形態制御に重要であり、カルシウム欠乏に伴って小胞体チューブルのリモデリングが起きることが報告されている。したがって、TERがカルシウムを介して小胞体形態を調節している可能性が高いと考えられる。以上のように、TERの小胞体形態への関与を示唆する結果を得ていることから、本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1) 脂肪酸代謝による膜変形タンパク質の制御 TERの発現抑制や過剰発現を行って、小胞体形態が変化するか検討する。次に、小胞体形態において機能する脂肪酸・脂質分子種を同定するため、TERの発現抑制下で産物の脂肪酸・脂質を戻す実験を行う。この処理で小胞体膜形態の異常がレスキューできれば、加えた脂肪酸・脂質が膜形態においてクリティカルであると考えられる。その後、TERの発現抑制下で、膜変形タンパク質の発現量・局在や、膜変形に重要なオリゴマー形成を評価し、脂肪酸代謝が制御する膜変形タンパク質を同定する。ここでは、脂肪酸代謝によって制御される膜形態(チューブルまたはシート)に着目し、その形態に関与する膜変形タンパク質について解析を行う。
2) 脂肪酸を介した膜形態制御のリポソームでの再構成 解析で同定した「膜変形を制御する脂肪酸」と「脂肪酸代謝によって制御される膜変形タンパク質」を人工リポソームに再構成し、特定の脂肪酸を含む脂質分子によって膜変形タンパク質による形態形成が制御されることを示す。用いる脂質の脂肪酸組成や、膜変形タンパク質の種類・量を調節して最適化を行い、小胞体の形態形成について「脂肪酸と膜変形タンパク質の相互作用」も含めた新たなモデルを構築する。
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