研究課題
小胞体はシートやチューブルといった形態的に異なる膜ドメインで構成され、その形態と機能の関連が注目されている。小胞体形態形成の機構は、特定の膜構造を安定化する膜タンパク質を中心に解析が進み、脂質に着目した解析は進んでいない。小胞体は脂肪酸の伸長、不飽和化などの代謝反応が起きるオルガネラである。脂肪酸代謝は膜脂質の物性を変化させ、膜タンパク質の機能に影響を与えることから、小胞体形態形成においても重要な機能を持つと予想される。そこで本研究では小胞体に存在する脂肪酸代謝酵素に注目した解析を行い、以下の結果を得た。脂肪酸を伸長する酵素の一つtrans-enoyl-CoA reductase (TER) に結合するタンパク質として、小胞体にカルシウムを取り込むポンプタンパク質SERCA2bを同定した。先行研究から、小胞体のカルシウム欠乏に伴って小胞体チューブルの形態変化が起こることが報告されており、TERがSERCA2bを介して小胞体形態を制御する可能性が考えられた。そこでさらなる解析を進め、TERがSERCA2b活性を抑制し、小胞体のカルシウム量を負に制御することを見出した。SERCA2bは細胞質に放出されたカルシウムを小胞体に取り込むことで、細胞質のカルシウムシグナルを終結させる。そこでカルシウムシグナルに着目した解析を行い、TERがSERCA2b活性を抑制することで細胞質のカルシウムシグナルを持続させること、カルシウムシグナル依存的な転写因子(NFAT4)の核移行を促進することを見出した。以上、TERがSERCA2bを介してカルシウム動態を制御することが判明した。今後、TER・SERCA2b複合体の小胞体形態における機能を解析することで、脂肪酸伸長酵素とカルシウムに立脚した、新たな小胞体形態形成機構を示すことができると期待している。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 296 ページ: 100310~100310
10.1016/j.jbc.2021.100310