研究実績の概要 |
体表面を覆う上皮細胞は、生体内と外環境とを隔てる重要な細胞である。上皮細胞は生体内の恒常性を維持するためにアピカル面と内に面するバソラテラル面で機能やタンパク質の局在が異なる極性を有し、この上皮極性は多細胞生物の生存に必須である。本研究はsiRNAによる上皮極性因子の網羅的スクリーニングを行い、上皮極性の分子機構を解明することを目的とする。 まず、互いに接着しない上皮細胞であるR2/7のZO-1の形態を指標にした独自のスクリーニング法を開発した。18,152遺伝子を解析したところ、アピカル関連候補遺伝子が851、バソラテラル関連候補遺伝子が298となった。そこから、機能やタンパク構造をもとに40遺伝子を選択して、異なるsiRNAを用いた二次スクリーニングを行った。その結果、クラスリンエンドサイトーシスに関与するSH3BP4が一つの候補遺伝子として上がった。免疫蛍光染色の結果、SH3BP4はアピカル側に偏在することがわかり、上皮極性に関与している可能性が示唆された。そこでビオチン化酵素であるTurboIDをC末に結合させたSH3BP4を発現するR2/7安定発現株を作製し、SH3BP4近傍にあるビオチン化されたタンパク質を質量分析で同定した。さらに、機能ドメインを欠失した変異体を発現する細胞のデータと比較したところ、野生型で優位に検出された遺伝子は150となり、その中でバソラテラルに局在する一つのタンパク質が見出された。つづいて、SH3BP4をノックアウトしたDLD-1細胞において当該タンパク質の局在を解析したところ、アピカル側への局在が増加していた。今後は、SH3BP4が新規上皮極性関連因子であること、さらにはSH3BP4が関与する新規の膜タンパク質の極性輸送の分子機構を解明していく必要がある。それは上皮極性の分子機構の包括的な理解につながる。
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