細胞が絶えず変化する力に応答する能力は血管形成や上皮性がんの転移などでみられる集団細胞移動に極めて重要である。本研究では、細胞接着装置の構成分子であるαカテニンの張力依存的な構造変化に着目し、集団細胞運動における役割を実験観察と数理モデリングを通して解析を進め、以下の研究結果を得ることができた。 1. 細胞接着装置の質的・量的変化に関して まず、αカテニンの構造変異体に結合する因子の網羅的解析を行い、新規の相互作用タンパク質の同定を試みた。その結果、アクチン細胞骨格と結合し細胞内情報伝達の調節分子として知られるアファディンや、アクチン細胞骨格の重合因子フォーミンなどが細胞間の力に応じて細胞接着装置に組み込まれることを見出した。また、これらの分子は構造変化したαカテニン同様に、集団性の細胞移動の際には異方的な局在を示すことも明らかにした。 2. 力学的シグナルと生化学シグナルの相互制御に関して αカテニンの構造変異体を発現する細胞を用いて、αカテニンの構造変化により変動するシグナル伝達経路の解析を行った結果、アクチン細胞骨格の制御因子である低分子量Gタンパク質RhoAの活性が亢進していることを見出した。これはアクチン細胞骨格の重合を力の負荷が大きい細胞接着装置に限局化することで、細胞接着の増強にフィードバックしている。 これらの結果から、αカテニンの構造変化が細胞集団において異方的に維持されると、細胞集団内に不均衡な力の分布をもたらし、調和の取れた集団性の細胞移動を可能にすることがわかった。上記の通り、当初の予定よりも研究は予想以上に進展したため、当初の研究目標を到達し、成果を論文として発表することができた。
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