研究実績の概要 |
イネ種子貯蔵タンパク質グルテリン、プロラミン及びグロブリンは、小胞体上で合成され、プロラミンは小胞体に蓄積し、グルテリン、グロブリンは液胞内へ輸送、蓄積される。3種のタンパク質の異なる細胞小器官への蓄積は、小胞体からの輸送蓄積系の違いだけでなく、各貯蔵タンパク質 mRNAの小胞体領域への局在の違いによって制御されていると考えられているが、その詳細は不明である。 本研究は、プロラミンmRNAの小胞体領域への輸送に関与するRNA結合タンパク質(RNA Binding Protein: RBP)-A, I, J, K, Qに焦点を当て、貯蔵タンパク質mRNAの小胞体への輸送と同タンパク質の蓄積との関連性を明らかにすることを目的としている。 プロラミンmRNAの核から細胞質への輸送に関与すると考えられているRBP-A, I, J, Kの同座変異体を各2系統選抜し、これら変異体種子の電気泳動を行い、貯蔵タンパク質の蓄積変化を調査した。その結果、すべての変異系統において、13kDa及び14 kDa、もしくは14 kDaのみのプロラミン分子の蓄積が減少していた。これら変異体の貯蔵タンパク質の局在を調査した結果、RBP-A、I、K変異種子において、プロラミンはER-PB (PBI)に局在するだけでなく、細胞膜及び細胞質にもその局在が認められた。以上の結果から、RBP-A、I、Kの機能阻害により、プロラミンの蓄積が減少し、その蓄積部位も変化することが判った。 今後、これらの変異体におけるプロラミンmRNAの局在を解析する予定である。 更に、RBP-A, I, J, K, QがプロラミンmRNAの輸送に関与することを明らかにするため、RFP及びGFP-RBP遺伝子(A, I, J, K, Q)を導入させた形質転換体の選抜を行っている。今後、各形質転換体のホモ個体を選抜し、RNA-IPを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロラミンmRNAの核から細胞質への輸送に関与していると考えられるRNA結合タンパク質(RBP-A, I, J, K)の同座変異体2系統を選抜し、それら変異体種子を電気泳動し、貯蔵タンパク質の蓄積変化の有無を調べた。全ての変異種子において、13kDa及び14 kDa、もしくは14 kDaのみのプロラミン分子の蓄積の減少が認められた。この結果から、RBP-A, I, J, K, Qがプロラミン分子の合成及び発現の制御に関与することを示唆するデータが得られた。 更に、RBP-A, I, J, Kの各変異体における貯蔵タンパク質(グルテリン、プロラミン及びグロブリン)の局在を蛍光顕微鏡により解析した。その結果、RBP-A、I、Kの変異種子においてプロラミンはER-PB(PBI)に局在するだけでなく、細胞膜及び細胞質にもその局在が認められた。RBP-A、I、Kの機能阻害により、プロラミンmRNAはPB-ERだけでなく、Cis-ERへもミスソートされている可能性が考えられる。これらの結果から、RBP-A、RBP-I及びRBP-KはプロラミンmRNAのPB-ERへの輸送だけでなく、プロラミンの正常な蓄積の制御にも関与することを示唆するデータが得られた。 今後これらの変異体におけるプロラミンmRNAの局在変化の有無を調査する予定である。 蛍光顕微鏡解析の結果、RBP-A, I, J, K変異種子において、グロブリン抗体で反応する構造体が認められた。同構造体は膜で囲まれた顆粒のものや、細胞壁内に存在するもの、デンプン顆粒内にもその構造物が認められた。RBP変異により、ストレス顆粒等の生成が促進されているのか、もしくはデンプン合成及びその構造においても何らかの変異が生じていると考えられる。その詳細は不明であるが、RBPは種子の生合成において多岐に機能していることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
RBP-A, I, J, K, QがプロラミンmRNAの輸送に関与することを明らかにするため、現在、GFP及びRFPと5種類のRBP遺伝子(RBP-A, I, J, K, Q)を野生型イネに導入させた形質転換体F1植物体を育成中である。今後、各形質転換体のホモ個体を選抜し、同個体のF2種子を試料として、RFP及びGFP抗体を用いて、CO-IPを行う予定である。回収したIPサンプルを試料とし、各RBP(RBP-A, I, J, K, Q)特異抗体を用いてウエスタンブロットを行い、各RBPのタンパク質間相互作用の有無を調査する。これにより、2種のRBP複合体(RBP-A-J-K及びRBP-I-J-K)が形成されていることを明らかにする。 更に、各形質転換体のF2種子を試料として、RFP及びGFP抗体を用いて、RNA-IPを行う。回収したIPサンプルを熱処理し、RNAを抽出、cDNAを合成後、プロラミン及びグルテリン遺伝子の特異プライマーを用いてPCRを行う。この方法により、5種のRBP(RBP-A, I, J, K, Q)がプロラミン及びグルテリンmRNAと結合しているか否かを明らかにする。 更に、RBP変異体(RBP-A, I, J, K)における貯蔵タンパク質mRNAの局在をin situ RT-PCRによって解析し、グルテリン及びプロラミンmRNAの局在の変化の有無を調査する。RBP-A, I及び K変異体種子の組織学的解析において、プロラミンの蓄積が変化していたことから、プロラミンmRNAの局在がPB-ERだけでなく、Cis-ERにもミスターゲットされていると予想している。 RBP-A, I, J, K変異体種子において、グロブリン抗体で反応する構造体が観察された。今後、電子顕微鏡解析により、その構造体の詳細を調査し、RBPの更なる機能を明らかにする。
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